ドッペルゲンガーといえば、自分の分身を自分もしくは他人が見てしまうという現象だ。昔から、自分自身を見てしまった人には死が訪れるといわれているが、本書ではこの現象を題材にした短編が10編収録されている。このテーマは古今東西の作家を刺激する恰好の材料のようで、パッと思いつくだけでもポーの「ウィリアム・ウィルソン」、ワイルド「ドリアン・グレイの肖像」などがあるし、キングの「ダークハーフ」もこの範疇に入るだろう。確か杉浦日向子の「百物語」にもドッペルゲンガーの話があったように思う。
本書にも様々なパターンの話が収録されているが、目を引くのは小池真理子の「ディオリッシモ」だ。ちょっとノスタルジックな雰囲気も併せ持った作品で、ラストの展開がなかなか秀逸である。こうくるとは思わなかった。
相変わらず唸ってしまうのが皆川博子「桔梗合戦」。これは正味の話、ドッペルゲンガーテーマとしては弱いかなとも思うのだが、過去の秘密が浮上する過程がすこぶるおもしろい。
筒井康隆の「チューリップ・チューリップ」も、このテーマで括るのはちょっと苦しいかな?だって、タイムパラドックスによって狂騒的に増えていく主人公が描かれてるのだから。
阿刀田高、増田みず子、生島次郎、森真沙子、山川方夫、都筑道夫、赤川次郎の作品はみな、このテーマの正統な作品群である。中でも阿刀田の「知らない旅」と赤川の「忘れられた姉妹」はなかなかおもしろかった。前者は登場人物すべてにドッペルゲンガーが現れる。後者はブラックな展開が忘れがたい印象を残すのである。
というわけで久しぶりのアンソロジー、結構楽しめた。読みやすくて、すぐ読めてしまうところもいい。
このテーマでは、もう一冊アンソロジーを買ってあって、これは翻訳作品なのだが、白水社から出てる「ダブル・ダブル」という本。こちらはルース・レンデル、ジョン・バース、ポール・ボウルズ、グレアム・グリーンそれとアンデルセンらの作品が収録されている。これも読むのを楽しみにしている次第。
このドッペルゲンガーという現象は、ありえない事ながら結構その現象が地味なので、作家の手腕が問われる部分が大きいのである。どう料理するかによってその作家の力量も見極められるということなのだ。