やはり出ました「厭な物語」の第二弾。前回のアンソロジーがかなり好評だったってことだねこれは。
ちょうど一年ぶり?今回は国内の作家も混じっての厭な物語。ラインナップは以下のとおり。
乳母車 氷川瓏
黄色い壁紙 シャーロット・パーキンズ・ギルマン
深夜急行 アルフレッド・ノイズ
ロバート スタンリイ・エリン
皮を剝ぐ 草野唯雄
恐怖の探究 クライヴ・バーカー
赤い蝋燭と人魚 小川未明
編者解説
著者謹呈 ルイス・パジェット
今回の話もかなり楽しめた。まずこのアンソロジーの趣旨からいうと、ぼくが一番厭な感じを受けたのは「黄色い壁紙」だ。これは既読の作品だが、やはりこの狂気にとらわれた静かで不気味な物語の持つ破壊力は絶大だと思った。狂気の論理が禍々しくて、直視することができない。
「私の仕事の~」は、奇妙な隣人に囲まれた奇特な男の話なのかと読み進めていたら、次第にゴシックな雰囲気が浸食してきて、男の語る話が現実なのかそれとも男の妄想なのかわからなくなってくる。
「深夜急行」は不気味な円環の物語。そこに登場する一枚の絵。これが効果的に配されて物語は閉じずに不穏な空気だけを残してゆく。
「ロバート」はアンファンテリブル物だ。だが真意はそこにない。これは読んでみなくてはわからないが、どうして作者がそこまで描いてゆくのかと作者の心を疑いたくなる不安に満ちた話だ。
一転して「皮を剝ぐ」は、生理的に嫌悪してしまうような描写にあふれたグロい一編。因果応報をストレートに描いた作品かと思いきや、最後に意外な事実が判明してさらに気持ちが悪くなるという仕掛け。この短編を収録してある「甦った脳髄」が確か積読本の中にあったと思うのだが、未読。表題作だけは読んでいたのだが、これは一読したら絶対忘れることのできない作品だ。だってあなた『ママの○○○が見たい』ですよ。なんなんだ、これは。
バーカー「恐怖の探究」は、まことに映像的な一編。タイトルそのままに恐怖を追求してゆく過程の中で必然的にそれがエスカレートしてゆくさまが描かれ、最後に酸鼻な惨劇がさらけだされる。←(今読んでいるエルロイの「クライム・ウェイブ」に収録されている頭韻小説の真似ね)
「赤い蝋燭と人魚」はあまりにも有名な童話だ。この話から連想するのは荒涼とした北の海と血のように赤い蝋燭それに昼なお暗い海辺の小さな町だ。そこで紡がれる救いのない物語の主人公は美しい人魚の娘。コントラストの差がはっきりしている明確な筋の中に淀む人間の澱。本書の中で二番目に厭な気持になるのがこの話なのかもしれない。
今回も前回のブラウン「うしろをみるな」同様、編者の解説のあとに最後の一編が用意されている。前回はゾクッとして終わったが、今回はなかなかしゃれた趣向だった。ここで描かれるのは魔術の物語。ストーリーの詳細は語らない。誰もがタイトルから想像するような物語展開ではないとだけ言っておこう。本書の中でも長いほうの作品だが、かなりのページターナーだった。
というわけで、今回も楽しめた。これは是非第三弾、第四弾と続けて出してほしいシリーズだ。でも、テーマがテーマだけになかなか秀逸な作品が集まらないかな?ぼく的には皆川博子の作品も選んでほしいところ。「獣舎のスキャット」「花冠と氷の剣」「疫病船」「文月の使者」「人それぞれに噴火獣」「十五歳の掟」「血浴み」「オムレツ少年の儀式」などなどいやーな話が目白押しなんだけどね。