読書の愉楽

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大森望編「ここがウィネトカなら、きみはジュディ 時間SF傑作選」

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早川のSFマガジン創刊50周年記念アンソロジー第二弾。 第一弾「ワイオミング生まれの宇宙飛行士」はあまりそそられなかったので未読なのだが、本書は時間SFテーマの逸品が並んでいるということで、なんとも我慢できずに読んでしまいました。

 

本書には十三編の短編が収録されている。タイトルは以下のとおり。



「商人と錬金術師の門」 テッド・チャン

 

 

「彼らの生涯の最愛の時」 イアン・ワトソン&ロベルト・クアリア

 

「去りにし日々の光」 ボブ・ショウ

 

 

「世界の終りを見にいったとき」 ロバート・シルヴァーバーグ

 

「昨日は月曜日だった」 シオドア・スタージョン

 

「旅人の憩い」 デイヴィッド・I・マッスン

 

「いまひとたびの」 H・ビーム・パイパー

 

「12:01PM」 リチャード・A・ルポフ

 

「しばし天の祝福より遠ざかり・・・」 ソムトウ・スチャリトクル

 

「夕方、はやく」 イアン・ワトスン

 

「ここがウィネトカなら、きみはジュディ」 F・M・バズビイ



編者大森氏のこだわりがみえてうれしいのが、同じ時間SFでも様々なヴァリエーションがあるということをこのアンソロジーで示してみせたところ。例えば上記のはじめの三編は時間SFといえばこれっ!というテーマの『時間ロマンス』で括られているし、それに続いて『奇想』、『ループ』といろんな時間SFの妙味を味わわせてくれるのである。で、この中でどれが一番印象に残ったかといえばやはり「旅人の憩い」だろうか。これ、読み始めはなんのこっちゃって感じの話なんだけども、それを我慢して読み進めていくと大抵の人が仰け反っちゃう展開になっていくのである。場所によって時間の流れが違うなんて凄い発想だし、まして主人公の名前も同時に変わっていくなんて、もう悶絶ものなのだ。どういうこと?と思った方は是非読んでいただきたい。これは奇想だけじゃなくて戦争が絡んだなんとも心に残る話でもあるのだ。その他はエフィンジャー「時の鳥」とチャン「商人と錬金術師の門」が最高だった。「時の鳥」は時間旅行が商売として確立されてる世界の話で、その設定ではシルヴァーバーグ「世界の終わりを見にいったとき」と同じなのだが、シルヴァーバーグが世界の終わりという未来への時間旅行を描いてシニカルな展開なのに対してエフィンジャーは過去に飛び、あの「アレクサンドリア図書館」を舞台に描いていく。これがとても軽妙で読みやすく、おもしろい。主人公と一緒にワクワクしながら幻の図書館に足を踏み入れるまでは良かったが、なんとそこにあったのは・・・・という展開がとても楽しい。よくまあこんな話思いついたものだ。チャンの短編はロマンス物の逸品であり、あのアラビアンナイトの世界をもってきたところに勝算があったのだろうね。グイグイ読まされること間違いなしの傑作です。あとロマンス編ではショウの「去りにし日々の光」も胸に残る作品だった。ここでは光が表から裏に通過するのに時間がかかるというスローガラスなるものが登場するのだが、そうすることによってガラスに映るものを時間差で見ることができるのである。この設定で描かれる物語は短くて、結末も予測できてしまうのだが、それでもなお胸を打つ。しみじみと悲しい作品だ。変わってスタージョンは相変らすなんともへんてこな話を考えつくものだと感心してしまった。曜日が消えてしまうなんて誰が思いつく?まして、そこからこんな風に話が広がっていくとは誰も予測できないだろう。ループ物ではルポフの1時間を果てしなく繰り返す男の話が孤独感を煽って秀逸。そして、ラストの表題作なのだが、これも最初はいったいなにが描かれているのかよくわからないのである。しかし、それが次第に実像を結んでいくさまが快感なのだ。この飛び飛びで時間を過ごすというアイディアの傑作はぼくの中ではニッフェネガーの「タイムトラベラーズ・ワイフ 」(ランダムハウス講談社文庫では「きみがぼくを見つけた日」)なのだが本短編もパラドックス絡みの展開でなかなか読ませます。でもこれを詳細に分解したらいろいろと粗は発見できそうだけどね。

 

というわけで、気に入らない話もあったけど(「夕方、はやく」)大満足のアンソロジーでありました。