「十の罪業」としてBLACK、REDの二冊が刊行されている。編者は大ベテランのエド・マクベインであり、彼自身の87分署シリーズの一編も収録されている。今回読んだのはBLACKの巻で、ここに収録されているのは以下の作品。
ジェフリー・ディーヴァー「永遠」
スティーヴン・キング「彼らが残したもの」
ジョイス・キャロル・オーツ「玉蜀黍の乙女――ある愛の物語」
ウォルター・モズリイ「アーチボルド――線上を歩く者」
アン・ペリー「人質」
かなり豪華な顔ぶれだ。知らない作家が一人もいない。でも、オーツとモズリイとペリーの三人は今まで一冊も著作を読んだことがなかった。短評を述べると、ディーヴァーは、読みはじめてすぐ、インガー・アッシュ・ウルフの「死を騙る男」を想起したが、おもしろいのは数学者でもある警官が事件の謎を解決するという設定。どんでん返しが何度かあり最後には少し神秘的な感動が待っている。キングの作品は以前に読んだので割愛。オーツは、誘拐事件の顛末を描いているのだが、これがなんとも心に残る作品で、子供を誘拐された母親と子供を誘拐した者たちの心情と行動が巧みに描かれているところが素晴らしい。話がどう転がっていくのかという興味を上回る切実な思いにあふれた作品。モズリイは、これまた不思議な印象の作品で体裁はハードボイルドなのだが、アーチボルドなる人物の造形が突出していて、ある意味ファンタジーのような雰囲気をまとわせている。これはもしかしたらシリーズになっているのかな?それくらい存在感のあるキャラクターだった。話的には定番の展開なのだが、一連の事件の謎が徐々に浮き彫りになっていく過程はすごくおもしろい。ペリーは、北アイルランド紛争を背景に骨太の物語を描く。この作品が一番読み応えがあった。プロテスタント強硬派の指導者で、強い信仰と信念に貫かれた男の家族が巻き込まれる監禁事件。軟禁状態にある家族と実行犯とのやりとりを男の妻の視点から描いているところがミソ。各人の心理を読み取る従順な妻。賢妻だ。彼女が家族を守るためにとった行動とは・・・。アイルランド問題を描いた作品は陰惨な印象を持つものが少なくないが、本作は不思議と清々しい読後感だった。
というわけで、すべて満足のいく作品ばかりだった。もう一冊の方は、さてどんな仕上がりだろうか。