読書の愉楽

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北村薫・宮部みゆき編「名短篇ほりだしもの」

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 このアンソロジーシリーズは一応本書で終わりなのだが、四冊目ともなるとやはり弾切れになってしまうのか、本書に収録してある作品は印象に残らないものが多かった。収録作は以下のとおり。

 

【第一部】

 「だめに向かって」 宮沢章夫

 

 「探さないでください」 宮沢章夫

 

 「吹いていく風のバラッド」より『12』『16』 片岡義男

 

 
【第二部】

 「日曜日のホテルの電話」 中村正常

 

 「幸せな結婚」 中村正常

 

 「三人のウルトラ・マダム」

 

 「剃刀日記」より『序』『蝶』『炭』『薔薇』『指輪』 石川桂郎

 

 「少年」 石川桂郎



【第三部】

 「カルメン」 芥川龍之介

 

 「イヅク川」 志賀直哉

 

 「亀鳴くや」 内田百けん

 

 「小坪の漁師」 里見弴

 

 「虎に化ける」 久野豊彦

 

 「中村遊郭」 尾崎士郎

 

 「穴の底」 伊藤人譽

 

 「落ちてくる!」 伊藤人譽

 

 「探し人」 織田作之助

 

 「人情噺」   〃

 

 「天衣無縫」  〃



 読んだことのない作家も多いが、中村正常、石川桂郎、久野豊彦の三人などはこのアンソロジーがなかったら知ることもなかったのではないか。今回特に印象深かったのがその三人の中の一人、石川桂郎だった。この人の書く作品は、ハードボイルドかと思うような研ぎ澄まされた文体で日常を切り取りながらもそこに鋭いナイフのようなギラッと光る感覚が冴えていて驚かされる。中でも「少年」が秀逸だった。

 

 他ではラストに配されている織田作之助の三作が新鮮でおもしろかった。いわゆる人情話で有名な彼の作風がうかがえる好短篇で、これは読んでみなくてはわからないが、何気なく描かれているのに本質が見抜かれているかのような確かで豊かな言葉選びが素晴らしい。また人と人との関わり合いの中で生まれる齟齬や感情の変化が無理なく自然に描かれているところも魅力だ。この短篇三作を読んで、まとめてオダサクを読んでみたいと思った次第。

 

巻末についている編者のお二人の対談は読んでいて楽しかった。「謎のギャラリー」シリーズもそうだったけど、この対談を読むのも楽しみなんだよね。