読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

夢枕獏 他「てめえらそこをどきやがれ!」

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 ようやく、このめずらしい本を読んだ。刊行されたのは、もう二十年も前なのだ。かなり古いな。

 ところで、ここに収録されている作品は夢枕獏以外はこの本でしか読めないんじゃないだろうか?よくわからないが、ぼくが知ってるかぎりではそのはずである。夢枕獏の表題作は今年の三月に創元SF文庫から出た「遙かなる巨神 夢枕獏最初期幻想SF傑作集」に収録されていたのでこれだけはいつでも読めるのである。

 その夢枕獏の「てめえら~」は後のサイコダイバー・シリーズの元になった短編。精神世界にダイブするという基本アイディアだけはそのままだが、主人公の名などの他の設定はまったく単独の作品。これはとりたててどうこう言うことのない出来だった。いっとき「魔獣狩り」のシリーズは集中して読んだことがあったが、あの頃に感じた物語的な興奮はなかった。

 鏡明「カリフォルニア・ゲーム」は先に読んだ「不確定世界の探偵物語」と似通ったテイストの作品だった。ただ、こちらはサーフィンを取り上げててその分躍動感は感じられた。異星が舞台の物語なのだが、迫りくる惑星のイメージは「ゼルダの伝説 ムジュラの仮面」での月が迫ってくる一場面を連想させておもしろい。あれ、結構怖いんだよね。

 片岡義男「象がきた町」は、この人がこんな作品書いてたのかと驚いた。いや、正直いってこの人の本は一冊も読んだことないのだが、こういったSFファンタジー書いてるようなイメージはなかった。絞首刑に処される象という滑稽で壮大な場面が頭にこびりついてとれない。

 高千穂遥「変態の方程式」は題名からもわかるように、あのSF短編の名作ゴドウィン「冷たい方程式」を下敷きにした作品。だが、こちらは本家とは似ても似つかないシロモノに仕上がっている。さしづめ団鬼六が書いた「冷たい方程式」とでもいおうか。あの筒井康隆でさえ、この名作をパロった「たぬきの方程式」を書いたとき、ここまでお下劣にはしなかったのに、なかなか思い切った人である。そういえば、ダーティ・ペアでもこれに近いテイストが感じられたな。

 萩尾望都「ヘルマロッド殺し」は、なかなかよく出来たSFだった。この人の漫画は「11人いる!」を読んで興奮したおぼえがあるが、小説もいけるではないか。すごく短い作品だがクローンをうまく扱っていて感心した。

 大和真也「カッチン」は、多元宇宙を扱った作品なのだが、これはあまり好みではなかった。多元宇宙といってもちょっと変格だから、ピンとこなかったのかもしれない。あまり見かけたことのない作家だと思ったら、この作品で第一回『奇想天外』新人賞入選した人みたいで、選考では新井素子「あたしの中の・・・・」より高い評価を得たそうである。

 というわけで、全6作品簡単に紹介したのだが目が飛び出るほどの傑作があるわけでなし、やはり消えていってしまう運命にある作品ばかりだったようだ。埋もれさせておくに忍びないとは思わなかった。

 めずらしさから、古本屋などで見かけたら手にとってみるのも悪くないかもしれない。なんせ、あの萩尾望都の短編SFがあるんだからね。