読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

文藝春秋 編「東西ミステリーベスト100」

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 文藝春秋が四半世紀ぶりに、あの「東西ミステリーベスト100」を刊行した。前回は文庫本だったが今回は雑誌としての刊行だ。ぼくにとって1986年に刊行された前回版は、まさしくバイブルとでもいうべき扱いでいまも手元においてあるが、もう表紙は折り返しのところでちぎれてしまったのでセロハンテープでくっつけてある状態、本自体も茶色く変色してボロボロだ。それでも未だにこの本は折をみて読み返している。

 

 こういうランキング本はある程度のマニアならば自分の中での評価と照らし合わせてニヤニヤしながら楽しめるし、初心者なら格好のガイドブックとして重宝すること間違いなしなのだ。ぼくは前回の時にはガイドブックとして、今回はいっぱしのマニア気取りで楽しんだ。この四半世紀の間にぼくも結構目端の利く本読みになったのである。

 

 だから今回選出された国内、海外合わせて200数冊の中に読んだ読まない関係なく知らない作家及び作品はひとつもない。前回のまったく未知の領域に踏み込むような期待と興奮に包まれた読書も捨てがたいし忘れがたい体験だったのは間違いないのだが、今回はどれどれと、お手並み拝見みたいな上から目線で楽しんだというわけ。

 

 しかし、やはり前回の本は伝説なのだ。あの全作品につけられた「あらすじ」と「うんちく」の素晴らしい導き。まだデビューする前の北村薫氏が書いていたというのは知っていたが、今回版を読んでそこに折原一氏と瀬戸川猛資氏が加わって三人で分担して書いていたということを初めて知った。誰がどの作品を受け持ったのかまで明らかにされていてとても興味深かったのだが、あの「あらすじ」紹介は本当に巧みで素晴らしいのだ。ネタばれをせずに、筋を簡潔にまとめ、尚且つそれを興味をもたせる絶妙な寸止め状態で締めくくる。まったくホレボレしてしまう。

 

 今回版も素晴らしく簡潔に要領を得た紹介なのだが、あの初見の興奮ゆえかどうも「あらすじ」は前回版のほうに軍配が上がってしまうのである。

 

 それとひとつ気になったのが、国内、海外の紹介の順番だ。前回版ではまず海外作品のランキングがあって国内が後だった。尚且つ海外作品の方には100位以降の作品も200位まで紹介されていて(この部分にぼく的にはお宝作品が満載だったのだ)あまりにも多くの未知の作品名が出てくるものだから鼻血が出そうなくらいに興奮したものだった。

 

 それが今回版では国内の後に海外という順番だった。これは毎年恒例の「このミス」の影響なのかな?どうも翻訳作品好きのぼくとしては、こういう些細なことだけでも前回版の肩を持ってみたくなってしまうのである。

 

 なんだか前回版と今回版の比較みたいな感じになってしまったが、どうであれこういう企画は楽しい。今回は回答者が前回の508人より減って387人だったのが少し寂しいが(また比較してる^^)とにかく古典作品は強かったということでお開きにしようと思う。

 

 そうそう、最後にぼく自身以前に海外ミステリーのランキングをつけてみたのでそれを書いておこう。



  1 「エヴァ・ライカーの記憶」 ドナルド・A・スタンウッド

 

  2 「緑は危険」 クリスチアナ・ブランド

 

  3 「エジプト十字架の謎」 エラリー・クイーン

 

  4 「火刑法廷」 ジョン・ディクスン・カー

 

  5 「さむけ」 ロス・マクドナルド

 

  6 「星を継ぐもの」 J・P・ホーガン

 

  7 「警察署長」 スチュアート・ウッズ

 

  8 「ウッドストック行き最終バス」 コリン・デクスター

 

  9 「フロスト警部シリーズ」 R・D・ウィングフィールド

 

 10 「ファイナル・オペレーション」 J・R・マキシム