読書の愉楽

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皆川博子「ペガサスの挽歌」

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 烏有書林という出版社は、まったく知らなかった。本書はそこが出しているシリーズ日本語の醍醐味の第四巻なのである。本書以前には坂口安吾「アンゴウ」、石川桂郎「剃刀日記」、藤枝静男「田紳有楽」の三巻が刊行されているそうな。知らなかった。本書もたまたまツイッターで知ったのであって、そうでなかったら気づかなかったかもしれない。あぶないあぶない。 

 

 このシリーズを監修・解説しているのが七北数人なのだが、この人は以前ちくま文庫で刊行されたなかなかアブノーマルなアンソロジー『猟奇文学館』シリーズを編んだ人で、よくぞこんな埋もれていた作品群をよみがえらせてくれたと快哉をさけびたい気分だ。

 

 本書に収録されているのは、皆川博子がメジャーデビューした1973年近辺の単行本未収録作とそれ以前に同人誌に発表されていた児童文学数編。タイトルは以下のとおり。

 

  初期児童文学作品
  
    「花のないお墓」

 

    「コンクリ虫」

 

    「こだま」

 

    「ギターと若者」

 

 「地獄のオルフェ」

 

 「天使」

 

 「ペガサスの挽歌」

 

 「試罪の冠」

 

 「黄泉の女」
 
 「声」

 

 「家族の死」

 

 「朱妖」

 

 同人誌に発表された児童文学作品である四作は、とても短いものばかりで取り立てて言及するまでもないのだが、やはり皆川エッセンスはここでも充分に発揮されていて腐臭にも似た毒を発散させているところがなんとも頼もしい。

 

 その他の単行本未収録短編は、後の完成された皆川作品とくらべると見劣りするところがあるのだが、まだ若い頃の作品なので、匂いたつ淫靡でアブノーマルなエロスが強調されていて圧倒された。また、当時の皆川博子の境遇を思わせるような主人公が多く登場するのもその特徴だった。それは彼女自身が家庭の主婦として平凡な日常に埋没していた時期を「半分死んで生きるほかはない」とも明かしてるとおり、満たされないやり場のない激しい情熱が煮えたぎっているようなさまが作品に溢れでているのだ。

 

 それは焦燥であり、怒りでもあった。そういった現実とリンクした激しい感情が文字を満たし作品を毒してゆく。ここに収録されている八編は、みな異常な物語だ。悲劇と惨劇にいろどられた不浄の物語だ。

 

 そこには後に精華となる皆川作品の萌芽がみられる。しかもそれはほぼ完成形に近づいている。それぞれの短編についての言及はここでは控えておこう。

 

 興味をもたれた方は是非読んで確かめていただきたい。この強烈な毒と痛みに耐えられるのならば。