読書の愉楽

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「私が選ぶ国書刊行会の3冊」国書刊行会40周年記念小冊子について

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 国書刊行会の40周年記念として、小冊子が配布されている。夏の終わり頃に配布されたので、もう残り少なくなっているのだろうが、ようやく手にいれたので記事にしようと思う。

 

 この小冊子、非売品なのが申し訳ないくらいしっかりした造りで、小冊子といえど、もうほとんど本みたいなものなので驚く。国書の力の入れようがわかろうというものだ。

 

 タイトルからもわかるとおり、この中では61名もの知識人たちが「私が選ぶ国書刊行会の本」として三冊選出している。それぞれが思い入れ深いコメントを寄せており、マイナーながらやはり国書刊行会が残してきた出版界での確固たる軌跡を眩しく見るおもいがした。

 

 ここで率爾ながら、ぼく自身の国書刊行会との関わりをふりかえりたいと思う。ぼくが、この特異な出版社に注目したのは90年代のはじめ、あの魅惑的な『文学の冒険』シリーズが刊行されだした頃なのである。ちょうど、海外の翻訳文学に興味を持ちはじめた頃でもあり、まさに渡りに舟という感じで飛びついた。スティーヴン・キングの洗礼を受けジョン・アーヴィングに手を伸ばし、そろそろと未知の大海へと漕ぎだそうとしていたときに凄いラインナップが登場したと狂喜した。

 

 そこで第一回配本だったと思うのだがティム・オブライエンの「カチアートを追跡してⅠ・Ⅱ」の二冊を購入して貪り読んだというわけ。それに味をしめて次はラテンだとばかりにイザベル・アジェンデの「精霊たちの家」を読み、ブッ飛んでしまう。そして、それらの本を購入した際に挟まれている刊行案内を見て、またまた頭を殴られたような衝撃を受けてしまう。「世界幻想文学大系」、「日本幻想文学集成」「ゴシック叢書」「フランス世紀末文学叢書」・・・・。まるで異界の扉を開けてしまったかのような後ろめたさをともなう蠱惑的な快楽を見出し興奮した。これらのシリーズは未だに手元に揃えることは叶わないでいるのだが、いつかはという夢は常に持ち続けている。

 

 そうやって国書刊行会への扉は大きく開け放たれ、まるでそのタイミングを合わせたかのように怒涛のシリーズが次々と刊行されてゆくようになる。「バベルの図書館」、「世界探偵小説全集」、「探偵クラブ」、「書物の王国」、「魔法の本棚」、「江戸の伝奇小説」、「ミステリーの本棚」、「スタニスワフ・レム コレクション」、「未来の文学」もう眩暈がしそうなほどのラッシュだった。

 

 まあ、よくこれだけマニアックな本ばかり集めたものだ。「文学の冒険」シリーズにしてもそれからも続々と刊行され、ピンチョン「重力の虹Ⅰ・Ⅱ」やファウルズ「マゴット」、コドレスク「血の伯爵夫人Ⅰ・Ⅱ」メンドサ「奇蹟の都市」、トゥルニエメテオール(気象)」などは未だに読まずに寝かせてあったりするのだがリョサ「フリオとシナリオライター」、ウィンターソン「オレンジだけが果物じゃない」、アジェンデ「エバ・ルーナ」などは最高におもしろかった。「世界探偵小説全集」のバーク「第二の銃声」、ロジャーズ「赤い右手」も傑作だった。

 

 でも合わないのもあってアレナス「パースの城」、クロウリー「リトル・ビッグⅠ・Ⅱ」、ソローキン「ロマンⅠ・Ⅱ」、アーウィンアラビアン・ナイトメア」などはすべて挫折した。

 

 これらは機会があればまた挑戦してみたいと思っている。

 

 というわけでこの記念小冊子なのだが、やはりこういうのを読むと気になる本が出てくるのは必然で、以前にも本屋で実物を手にとって、これは自分には荷が重すぎるんじゃないかと思って見送ったマチューリン「放浪者メルモス」やピンチョン「V. Ⅰ・Ⅱ」や朱天心「古都」や「山尾悠子作品集成」などが俄然気になりだしてくるのである。なんとも罪つくりな冊子だ。各著名人たちのコメントも国書愛にあふれていて微笑ましく、やはり国書刊行会愛する人は多いのだなと安心もし、高揚もした。

 

 で最後におこがましいのだが、ぼくが選ぶ国書刊行会の3冊を挙げて、終わりにしたいと思う。もう、上の文章の中に二冊出てきてるんだけどね^^。



 *「カチアートを追跡して Ⅰ・Ⅱ」ティム・オブライエン

 

 *「精霊たちの家」イザベル・アジェンデ

 

 *「復讐奇談安積沼/桜姫全伝曙草紙」山東京伝 須永朝彦編    

 

 この三冊、すべて最高におもしろいです。未読の方がおられたら是非お読みください。