デビュー作の「インストール」以来だ。途中の過程がごっそり抜けてる。そんなぼくは、この最新刊を読んで目を見開いてしまった。
なんだ、これは。すごいじゃないか。あきれるほどに、惹きつけられてしまう。久しぶりに震えるような期待と身を引き裂かれるような不安を同時に味わい、戸惑った。
高校生の恋愛を描いて、どうしてここまで心を持っていかれてしまうのか?なぜなら、ここにはなりふりかまわない無鉄砲でがむしゃらな野性的ともいえる本能に忠実な一人の女子高生がいるからだ。
彼女、木村愛は一人の男子高校生に恋する。悲しい目をした光の散る笑みをもつ、存在するだけで胸を苦しくさせる人。彼女は、彼を振り向かせるためにモーションをかけてゆく。しかし、彼にはつきあっている彼女がいた。ここで、話は一旦リセットするかに見える。しかしここからが本書の本領発揮なのだ。
愛は、暴走するのである。恋する気持ちは勢いを増し、周りを見えなくし本能のまま突き進んでゆく。その過程はもどかしく、恐ろしく、ぞくぞくするくらいおもしろい。
実をいうと、愛の姿勢は最初から少し異常なテンションを見せている。まさになりふりかまないその姿は刹那的であり、計算ずくの行動のようにみえて本当のところは本能のまま行動しているのだ。
こうやって書き出してみると愛の人格を疑ってしまいそうになるが、決してそんなことはない。彼女の動向はいちいち腑に落ちる。心の奥底にある願望のようなものを彼女は体現しているから、ぼくは嫌悪を感じない。むしろ共感してしまう。ありえない事なのに、そこに居場所を見つけようと必死にもがく自分がいるのだ。
愛は突き抜ける。向こう側にまで行ってしまう。そしてどんどん自分を追い込んでしまう。その必死な姿は見苦しい。見苦しくて悲しくもどかしい。だが、満たされぬ思いが必死な心が根底に流れているから見捨てることはできないのだ。
本書は恋愛小説なのだろう。しかし読了して受けとるものは恋だの愛だのといった甘いものではない。むしろその対極にあるかのような激情とその収束だ。本書を読むのは嵐の中を突き進んでゆくようなものであり、人間の根底にあるプリミティブな感情を掘りおこす行為でもある。
すごいな、綿矢りさ。