読書の愉楽

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横溝正史「獄門島」

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 つい先日発売された文藝春秋の「東西ミステリーベスト100」でも、四半世紀前に刊行された文庫版の「東西ミステリーベスト100」でも国内編で堂々の一位だったのが本書「獄門島」だ。

 

 これだけの評価があるのに未読ではいけないと、ようやくいまになって読んでみることにした。とりあえず横溝正史の本はほとんど読んだことがない。なぜならば、ぼくが小学生の頃にちょうど何回目かの横溝ブームがきて古谷一行主演のテレビドラマや映画化作品などが軒並みヒットし、ぼくは本を読む前にそれらの作品で金田一耕助が登場する作品に接してしまったのだ。

 

 だから本好きになった時には、横溝作品のほとんどのストーリーをすでに知っていた。

 

 以上のことから、ぼくは横溝作品を本で読むことがなかったのである。そんな中でもやはりこの「獄門島」は印象深く、この作品のミステリとしての素晴らしさはずっと記憶に残っていた。中でも第一の死体発見時に和尚がつぶやく「気ちがいじゃが、仕方がない」の意味と死体移動のトリックは、そのあまりにも見事な結構にゾクゾクしたものだ。

 

 だが今回はじめてこの本を読んでみて感じたのは、辛気臭さだった。あまり古臭さは感じなかったが、物語の展開がどうにもまどろっこしくていけない。興味が持続しにくいというか、ストーリーの進み具合がスローテンポというか、どうにも合わなかった。

 

 だが、やはりミステリの構築美は素晴らしく、トリックの完璧さ、殺人の演出、解明への道筋においてこれほど見事な作品はそうそうないと思うのである。

 

 ただこれは乱歩も指摘しているらしいが、殺人の動機において引っ掛かりがある。それだけの理由でこれほどの殺人劇が展開されるのは不自然に思うのだ。

 

 かように彩りとしてのミステリのケレン味は充分であり、カーの諸作にも匹敵するかのような豪華さだがいかんせん物語としてグイグイ引っぱってゆくような面白さは感じなかった。

 

 ま、本書以外の横溝作品はもう読むことはないだろう。だって、すべての話は知っているのだから。