読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

2012-01-01から1年間の記事一覧

山田風太郎著 日下三蔵編「神変不知火城 山田風太郎少年小説コレクション②」

本書は論創社から刊行されている山田風太郎少年小説コレクションの第二弾なのである。風太郎のジュブナイルは結構書かれていたみたいで、いままで廣済堂文庫(「天国荘奇譚」「青春探偵団」)や光文社文庫(「笑う肉仮面」「天国荘奇譚」「怪談部屋」)で刊…

レオ・ペルッツ「夜毎に石の橋の下で」

1600年前後のプラハなんてまったく馴染みのない世界で、以前に皆川博子「聖餐城」を読んだ時には、よくこんな時代を舞台にしたものだと舌を巻いたものだった。世界史に疎いぼくは、この時代のドイツ、オーストリア、チェコ、イタリア北部らが一つの国家…

舞城王太郎「短篇五芒星」

五つの短篇が収録されている。タイトルは以下のとおり。 「美しい馬の地」 「アユの嫁」 「四点リレー怪談」 「バーベル・ザ・バーバリアン」 「あうだうだう」 相変わらずタイトルを見ただけではどんな話か見当もつかないのだが、いつものごとくふざけてい…

マイケル・バー=ゾウハー「エニグマ奇襲指令」

ナチス・ドイツが使用していた実在の暗号機『エニグマ』。ドイツ軍はこの暗号機を占領下のフランスに27台所有していた。そのうちの一つを悟られることなく盗みだす。この限りなく不可能に近い密命を帯びて、かつてゲシュタポから金塊を盗んだことのある大…

東雅夫編「文豪怪談傑作選 特別篇 文藝怪談実話」

ちくま文庫のこの文豪怪談傑作選は一冊で一人の作家が描く怪談話を特集していて、まことに魅力的なシリーズなのだが、あいにくぼくは一冊も読んでいない。こういう怪談話はやはりアンソロジーのほうに惹かれるのだ。本書にはタイトルからもわかるように近代…

三橋淳「昆虫食古今東西」

昆虫というと嫌悪をしめす人が多い。あきらかに動物とは違う形状に、あの無機質で機械的な動作が受け入れがたいのだろう。ぼくは虫に対してさほど抵抗はない。田舎に住んでいたので幼少の頃から虫はいつも周りにいた。また、それらの虫を使って様々な実験観…

あせごのまん「余は如何にして服部ヒロシとなりしか」

内村 鑑三の「余は如何にして基督信徒となりし乎」とはまったく関係ない。同じタイトルだとしてもね。まったく人をくった話なのだ、この表題作は。魅力的な尻に惹かれてつけていった女は中学の時の同級生服部ヒロシの姉だった。彼女に誘われるままに不気味な…

東出祐一郎「ケモノガリ」

限られた人間だけが莫大な入会金と徹底した調査の上で参加できる殺人を享楽する『クラブ』。彼らは独立間もない東欧の小国の一都市を買い取ってそこで人間狩りを行っていた。日本から修学旅行で訪れていたとある高校の一団が拉致され獲物として供給される。…

コルタサル「遊戯の終わり」

アルゼンチンの作家フリオ・コルタサルの短編集である。以前国書刊行会から単行本として刊行されていたが、長らく絶版だったのを岩波文庫から加筆、修正しての刊行なのである。だから、名のみ知る本を読めると思ってけっこう期待が大きかった。 ところがであ…

「誰も悪くはない海」

さして意味のある言葉でもなかった。きみが言い放ったその言葉は空を舞った。 「どうでもいい!」 ぼくもどうでもよかった。窓の外は英語の空だった。意味のないアルファベットが無数に飛んでいた。涙を浮かべたきみの顔には虚しさだけが張りついていた。長…

ロジャー・スミス「血のケープタウン」

いまさらながら、本書を読んでいて海外は怖いなあと思うのである。本書の舞台は南アフリカのケープタウン。いうまでもなく世界でも有数の犯罪都市だ。麻薬常習者、ギャング、悪徳警官そして罪を犯してアメリカから逃亡してきた一組の家族。役者が出揃ったと…

J・L・ボルヘス「汚辱の世界史」

本書に収録されているほとんどの作品はボルヘスの創作ではなくて原典があるものばかりだ。ようするにオリジナルの話ではないということ。収録作を挙げると 『汚辱の世界史』 ラザラス・モレル ――― 恐ろしい救世主 トム・カストロ ――― 詐欺師らしくない詐欺師…

ブノワ・ペータース作 フランソワ・スクイテン画 「闇の国々」

本書はいままで読んできたBD(バンド・デシネ)作品の中で一番大きくて一番分厚かった。しかし、それだけの内容のある本だったのは間違いない。 本書で描かれているのはタイトルそのままの『闇の国々』のお話。それは、いま我々が生きている世界とはまた別…

ビックリ体験を教えてください

いまは昔、まだぼくがペーペー社員だった頃。 寝坊してしまったぼくは、とにかく遅刻しないよう車を平均時速70キロで快調に飛ばしていた。 A町の街中を運転中、後ろから猛スピードでやってきたジープが、ぼくを追い越そうとした。 させるか!そう思いぼく…

板倉俊之「蟻地獄」

友人の修平と組んで違法カジノでイカサマをして大金をせしめようとした二村孝次郎。だが、うまくいったかに見えたイカサマは見破られ、修平を人質にとられた孝次郎は五日の期限を切られ三百五十万を用意しなければならなくなってしまう。いったいどんな方法…

宮内悠介「盤上の夜」

本書にはゲームを主題に据えた短編が六編収録されている。収録作は以下のとおり。 1 「盤上の夜」 2 「人間の王」 3 「清められた卓」 4 「象を飛ばした王子」 5 「千年の虚空」 6 「原爆の局」 それぞれ扱われているゲームは以下のとおり。 1 囲碁 …

アーナルデュル・インドリダソン「湿地」

アイスランド発の警察小説なのである。無論、ぼくもこの地で生まれた小説を読むのは初めてだ。ま、大抵の人がそうなんじゃないの?アイスランドに一番近い国で読んだことのある小説はスウェーデン発のミカエル・ニエミ「世界の果てのビートルズ」。これは最…

樋口毅宏「二十五の瞳」

誰もがタイトルから連想するように本書は壺井栄「二十四の瞳」をモチーフにしている。もちろん舞台は小豆島。あの小さい島を舞台に平成、昭和、大正、明治の四つの時代の物語が描かれる。それが一筋縄でいかないのである。それぞれの時代においてさまざまな…

木更津ヴァイス

異様に甘ったるいソーダをストローで吸い上げると、顔の半分ほどあるサングラスを上げてぼくは窓の外を見た。BGMはフィフス・ディメンションの「輝く星座」。オレンジ色の笠のついたライトが照らす店内はタバコの煙りとナポリタンの酸味のある香りに包ま…

皆川博子「双頭のバビロン」

頽廃の都市バビロン。本書ではそれはハリウッドと上海に象徴される。そしてゲオルグとユリアンの融合双生児がそこに配され、先行きのまったく読めない濃密な物語が語られる。 世紀末のウィーンで産声をあげた二人は手術によって引きはなされそれぞれ別の道を…

窪美澄「晴天の迷いクジラ」

三人の登場人物がいて、それぞれの辛い人生が描かれる。デザイン会社に勤め、忙しい日々の中で鬱病になってしまう新人社員の田宮由人、その会社の社長で傾いてきた会社の経営を放棄して自殺しようとする中島野乃花、幼くして死んだ姉の代わりに母から執拗な…

ジュディ・ダットン「理系の子 高校生科学オリンピックの青春」

このタイトルとサブタイトルをみて専門外だと思った人は、ちょっと待っていただきたい。本書はそう思った人にこそ読んでいただきたい本なのだ。ぼく自身も完全な文系で、数学や物理学は学生時代から本当に苦手だった。だからいまだにSF小説は読む割合が少…

ジョン・ファウルズ「魔術師 (上下)」

本書を読むまえに抱いていた期待は、見事に砕けちった。曰く『第一級のミステリー並みに面白く』曰く『稀有な小説であり』曰く『優れた小説とは何か、を考えるとき、この「魔術師」は自分にとって、不動の基準の一つでありつづけている』と翻訳家の高見浩氏…

岸本佐和子 編訳「居心地の悪い部屋」

タイトルからもわかるとおり不穏な雰囲気をまとった作品ばかりのアンソロジーということだが、読了してみればさほどでもなかった。居心地の悪い作品といえば、やはり一番に思いつくのがディーノ・ブッツァーティであり、独断で言わせてもらえば彼の右に出る…

フェルディナント・フォン・シーラッハ「罪悪」

シーラッハ短編集の二作目である。今回は前回にもましてコンパクトにまとめてあって、遅読のぼくがほんの数時間で読了するくらいスルスルと読めてしまった。長いものでも30ページ短いのならほんの3、4ページの作品ばかりだから読みやすいことこの上ない…

彩瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出」

著者の彩瀬さんは、震災のあったあの日に福島県のJR常磐線新地駅で被災、たまたま乗り合わせた女性と一緒に逃げて一命をとりとめた。きままな一人旅ゆえまわりは見知らぬ人ばかり、震災の混乱の中、情報も錯綜しいったい何が起こっているのか把握もできな…

4月の読書メーター

2012年4月の読書メーター 読んだ本の数:8冊 読んだページ数:2974ページ ナイス数:34ナイス ■地上の飯―皿めぐり航海記 ちょっと取っ付きにくい文章なのだが内容は面白かった。期待してたほど食に関する情報はなかったが、所々挿入される海外文学への言及は…

中村和恵「地上の飯 皿めぐり航海記」

食に関するエッセイだと思っていたのだが、それだけではなかった。著者の中村和恵さんは日本だけでなくモスクワ、メルボルン、ロンドンにも住んでいたことがあるそうで、その後も世界各国を周って様々な国の文化に触れてきたらしく、われわれの知らないめず…

長沢樹「消失グラデーション」

久しぶりにミステリを読んでいて完全にひっくり返されてしまった。はっきりいってこの衝撃は「十角館の殺人」以来だった。本書の323ページのある一行まできたとき、それまで活発に活動していたぼくの思考は完全にフリーズしてしまった。ほんと、真っ白に…

ご報告。

けっこう前に届いていたのだが、あの「ゴーストハント」が再刊された際の全巻購入特典プレゼントの報告なのである。いったい何が届いたのかというと、全巻がすっぽり収まる『専用BOX』と『特別冊子』の二点。 こんな感じね。 ↓ ぼくはまだ二巻目までしか…