読書の愉楽

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小杉英了「先導者」

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 極秘で運営されるある組織に属する者の物語。語り手である「わたし」は先天的な染色体異常をもっており、それゆえに『先導者』として『御役』につく運命を背負っていた。『御役』とは、生前に結ばれた契約によって死者となった名士・金持ちを、再び名誉ある家系に生まれ変わるよう導く役。自らも死者のいる世界に投降し、右も左もわからない死者を正しい方向に導いく役。

 

 「わたし」が初めて御役を務める相手は川で溺れた七歳の少女だった。しかし、彼女は「わたし」の導きを拒否する。いったい少女の身に何があったのか・・・。

 

 第19回日本ホラー小説大賞受賞作なのだそうだ。前回は大賞が出ずその前はここで散々文句を書いた「お初の繭」だった。久しぶりの受賞作ゆえ、少し期待していたのだがどうも期待が大きすぎたようだ。

 

 ぼくの頭も固いのかもしれないが、どうもこの賞の存在意義自体に頭を傾げてしまうのである。「ホラー」という冠がついている以上、そこにはやはり恐怖が描かれていなくてはならないと思うのだが、どうなのだろう?このホラー小説大賞の受賞作をすべて読んでいるわけではないが、そういった意味で本当に怖くて面白かったのは貴志祐介氏の「黒い家」ぐらいじゃないかと思うのだ。

 

 で、本書なのだがこの「御役」というアイディアはいままでなかったように思いそれは新鮮だった。結局それが何だったのか?という疑問は物語が終了した段階でも残ってしまうのだけど、それはこの際あまり突っ込まないでおこう。だが、これが物語の要なのにあまり起伏を生んでいなかった。それほどストーリーに食い込んでこなかったのだ。主人公が特殊な設定なので、その人物を語り手にすることによって臨場感を盛り上げており、実際死への行程や死者の世界などの場面はなかなか強烈な印象を与えるのだが感情が排されていて、もう少し未練のあるような人物のほうが読み手も感情移入できたのにと感じた。

 

 また、本書で一番の読みどころである各要人の死に対するドラマが簡潔に処理されており、そこをもっと書き込めば、さらに面白い展開になったのではないかと思うのである。最後の方でこの前の震災後の話なのかな?という描写があったが、そのへんもあまり書き込まれていないので効果はあまりないように思った。

 

 以上、本書を読んで感じたことを正直に書いた。