読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

2009-01-01から1年間の記事一覧

東郷隆「人造記」

この人の本は初めて読むのだが、いっぺんで気に入ってしまった。 収録されているのは以下の5作品。 「水阿弥陀仏」 「上海魚水石」 「放屁権介」 「蟻通し」 「人造記」 それぞれ時代はバラバラだ。「水阿弥陀仏」は室町時代が舞台。かの果心居士を彷彿とさ…

ガブリエル・ヴィットコップ「ネクロフィリア」

やはりフランスには怪物が多いのである。サド、バタイユ、ジュネ、セリーヌ、マンディアルグの系譜に連なる新たなる暗黒文学の精華が本書「ネクロフィリア」なのである。 ここで、忠告。以下、本書に関するぼくなりの感想を書いていきますが、扱っている題材…

木原浩勝 中山市朗「新耳袋 現代百物語第四話」、小池壮彦「幽霊物件案内2」

もねさんの紹介で読んでみることにした。こういう実話系怪談の本をまとめて読んだことがなかったのでなかなか新鮮な体験だった。 まず、「幽霊物件案内2」である。これはさほど怖くない。もねさんが取り上げられていた第九章の封印されたホテル旧館に纏わる…

弐藤水流「リビドヲ」

ちょっと写真うつりが悪いけど、帯の文句はわかると思う。この面子が絶賛してるとなると、ちょっと期待してしまうのは仕方がないことだろう。新人なのに、この鳴物入りのデビューはいったいどうしたことだ?それに、週間現代では貴志祐介も書評に取り上げて…

古本購入記 2009年7月度

ようやく梅雨もあけたようで、いよいよ夏本番ですね。でも、今年の夏はあんまり暑くないような気がす るんだけど、そうでもない?ウチのマンションまだ一度もクーラーつけたことないんだけど、みなさんど うですか?4階で川が近くにあるからかな?夜なんか…

「悪魔のような夕方」

悪魔のような夕方だった。 ぼくは大きな饅頭をほおばりながら、堤防の道を太陽に向かって歩いていた。 見下ろすと緩やかに流れる金色の川がまぶしくて、一瞬目が眩んだ。ふたたび焦点が合うと、ぼくはマイ キート・ハスパーンの探偵事務所にいた。ハスパーン…

小川洋子編著「小川洋子の偏愛短篇箱」

恥ずかしながら、小川洋子の本は一冊も読んだことがない。なぜだか読みそびれたまま、いままできてしまった。「ホテル・アイリス」「まぶた」「薬指の標本」などを買ってあるのだが、読めてないのだ。 にもかかわらず、こんな本を読んでしまった。なぜなら、…

絵本・新編グリム童話選」

いまさらなのだが、グリムなのである。どうしてこの本を読む気になったのかは説明しなくてもわかるでしょ?だって、表紙の写真見てもらえれば一目瞭然なんだもの^^。 というわけで本書には11編の作品が収録されている。「ブレーメンの音楽隊」 高村薫「…

平山夢明「SINKER―沈むもの 」

本書が刊行されたのは1996年。いまから13年も前のことだ。当時ぼくは本書を新刊で買った。表紙の写真を見てもらえばわかるように徳間ノベルズ22周年記念として『Night Mare File』シリーズの一冊として刊行されたのである。他にもいろ…

高橋克彦「緋い記憶」

本書に収録されている「遠い記憶」を以前アンソロジーで読んで、とても感心した。なんといっても、ラスト一行の戦慄は何度読んでも肌が粟立つおもいがする。ここに登場する中年の作家は、仕事で盛岡に行くことになる。彼は東京で母と暮らす身なのだが、幼い…

頭を食べる話。

仕事場の先輩と一緒に大学の食堂で食事をしている。奢ってやるからなんでも食えといわれて、ぼくは人 肉料理を注文する。以前にも人肉料理は食べたことがあって、その時は頭だけ食べたのだが、脳みその旨 さが格別だったので、また食べてみようと思ったのだ…

読書メーター 2009年6月分まとめ

2009年6月の読書メーター 読んだ本の数:11冊 読んだページ数:3147ページ ■嘘つきは妹にしておく (MF文庫J) 話の組み立て方としては、はっきりいってお粗末な感がぬぐえない。唐突に話がはじまるところに余裕は 読了日:06月28日 著者:清水 マリコ http://…

日向蓬「サポートさん」

「女による女のためのR‐18文学賞」というのは、女性が書く官能小説のことだと思い、あまり気にもとめていなかったのだが、本書の日向蓬にしろ豊島ミホにしろ宮木あや子にしろ、一般作品にも進出してきて結構目が離せない作家をいろいろ輩出してきたなと思う…

佐藤亜紀「雲雀」

前回読んだ「天使」で、この著者に完全降伏したわけなのだが、本書を読んでまた頭を垂れた。 凄すぎる。あまりにもぼくが知ってる小説作法からかけ離れすぎて本書を読んでる間中、頭の中はフル回転だった。しかし、それが心地よい。感覚が研ぎ澄まされるよう…

東野圭吾「むかし僕が死んだ家」

久しぶりの東野圭吾だと思って調べてみたら、ほぼ三年ぶりだった。前回読んだのは「赤い指」で、直木賞受賞後第一作だったと思うのだが、あれが少し物足りなかったのでちょっと離れてしまう結果となったのだ。 本書を読む気になった理由は特にない。ちょっと…

ポール・トーディ「イエメンで鮭釣りを」

白水社の新シリーズ『エクス・リブリス』レーベルは、独創的な世界の文学を厳選して贈るシリーズということで、第一回配本のデニス・ジョンソン「ジーザス・サン」を取るものもとりあえず読んでみたのだが、これが見事にコケてしまった。いやいや世間での評…

「フランク・オコナー短篇集」

この人はアイルランドを代表する短篇の名手ということで、何年か前に村上春樹がこの人の名を冠した短篇賞を受賞してたのが記憶に新しい。でも、ぼくはこの人の作品を読んだことがなく、単純に名前を見てフラナリー・オコナーと混同してしまうなと思ったくら…

シフト人生

他人の人生を体験するというのは得がたい体験であり、それが良いものであれ悪いものであれ、また元のぼくの人生に帰ってくることが保証されているのなら、お金を払ってでも一度体験したいものであると常々考えていた。それがどうだ、ほんとに夢に見ちゃった…

古本購入記 2009年6月度

今月は、ちょっと控えましたよ。14冊、13作品。ね?いつもよりちょっと少ないでしょ? タイトルは以下のとおり。 「泣かない女 ― 短篇セレクションミステリー篇」 小池真理子 「律子慕情」 小池真理子 「ジュリエット」 伊島りすと 「リピート」 乾くる…

清水マリコ「嘘つきは妹にしておく」

ラノベを読むようになってから、年甲斐もなくカラフルな背表紙の並ぶ棚の前でおっさんがウロウロするようになったのだが、たくさん並んでいる本の中にこれだ!と思うものを見つけるのはそうそうあることではない。そんな中、この文庫からは読む本はないだろ…

ジャネット・ウィンターソン「灯台守の話」

ウィンターソン作品はこれで三冊目である。衝撃の出会いとなった「さくらんぼの性は」も彼女のデビュー作である「オレンジだけが果物じゃない」も、頭から煙が出てしまうくらい興奮して読んだ。それくらい彼女の作品には首ったけなのだ。 彼女の作品の魅力を…

教室と地獄

「耳カキでこそげ落とすような感じで発音してください」 そんなこと言われても、それがどういう感じなのかがわからない。っていうか、わかる人いる? すると、隣に座っていた若い女の子が大きな声で文例を読み上げた。 それは、まさしく『耳カキでこそげ落と…

皆川博子「トマト・ゲーム」

『トマト・ゲーム』 『アイデースの館』 『遠い炎』 『アルカディアの夏』 『花冠と氷の剣』 『漕げよ、マイケル』 本書に収録されているのは以上の五編。それまでジュヴナイル作品は発表していたが、皆川博子が一般向 けにデビューした記念すべき短編集であ…

劇団ひとり「陰日向に咲く」

タレントの本が続きます。もう三年も前に刊行されて評価も定まった本書を今更読むに至ったのは、べるさんの影響である。読了して思った。確かに本書は素晴らしい。連作形式の小説はいままで数多く読んできたし、一応その仕掛けに対する免疫もあると思ってい…

前田健「それでも花は咲いていく」

この人もタレントさんなのだが、この本のことをとある雑誌で貴志 祐介が褒めていたので、興味をもったのである。本書にはそれぞれ花の名を冠した短編が9編収録されているのだが、ここで描かれるのはいわゆる異常性愛の人々なのである。それはロリコンであっ…

岸田今日子「二つの月の記憶」

女優岸田今日子しか知らないぼくにとって、本書は衝撃的だった。ちょっと踏み込んで、あの懐かしのムーミンとして親しんだ岸田今日子さんが、こんな素敵な本を書かれていたとは知らなかった。 本書は、岸田今日子さんが亡くなられる前に雑誌「メフィスト」で…

山白朝子短篇集「死者のための音楽」

話題の作品集である。本書の著者がかの作家の変名だというのは、おそらくそうなのだろうと思われる。だって、各作品の作風がまったくそのままなんだもの。というわけで各作品のタイトルをば。 ・「長い旅のはじまり」 ・「井戸を下りる」 ・「黄金工場」 ・…

遠藤徹「むかでろりん」

寺田克也の扇情的な表紙と、意味不明なタイトル。これだけ揃えば、もう読むのに躊躇はしない。本書の著者が「姉飼」で日本ホラー小説大賞を受賞してデビューしたことは知っていた。しかし、「姉飼」にはあまりソソられなかった。なんか話が見え透いているよ…

ルイス・シャイナー「グリンプス」

SFの体裁をまとっているが、本書の眼目はそこにはない。それは、話を進めるだけの一つの手法であって本書で描かれる真のテーマは親と子の確執である。そう書けば、なんと辛気臭い話なんだと思われる向きもあるかもしれないが、ちょっとまっていただきたい…

皆川博子「化蝶記」

皆川時代小説集である。全八編それぞれバラエティに富んだ趣向が凝らしてある。まずはタイトルをば。 ■ 「化蝶記」 ■ 「月琴抄」 ■ 「橋姫」 ■ 「水の女」 ■ 「日本橋夕景」 ■ 「幻の馬」 ■ 「がいはち」 ■ 「生き過ぎたりや」 うれしいことに、この中で「化…