読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

2009-01-01から1年間の記事一覧

ジェイ・アッシャー「13の理由」

それほど凄い事が書かれているわけでもないのに、本書から受けるインパクトは絶大だ。ショッキングな場面があるわけでなし、歪んだ心情が描かれるでもない。ここに登場するのは等身大のわたしたちである。わたしたちと同じ普通の人々が登場し、そんなにドラ…

乾ルカ「プロメテウスの涙」

乾ルカ氏の初長編である。これは多大な期待をよせて読んだのだが、読了した今、少々とまどっている。なんとも奇妙な話であり、事の真相を知りたいという欲求のみに突き動かされてラストまで一気に読んだのだが、ちょっと肩透かしだったのだ。まず登場するの…

古本購入記 2009年5月度

いま早川文庫から片岡義男コレクションてのが出てるでしょ。ぼくは、この人まったくのノーマークで いままでの読書人生で、一冊も本を手にとったことがないのだが、今回のコレクションはなんだか気にな ってるのである。基本的にこの人はぼくの中では銀色夏…

アナトール ・ル・ブラーズ編著「ブルターニュ幻想民話集」

本書にはいまからおよそ100年ほど前のフランス、ブルターニュ地方の恐い話、不思議な話が97話収録されている。すべての話が、この地方に住む様々な人々から実際聞いてまわったインタヴューであり、いわば本書はフランス版遠野物語の様相を呈しているの…

今野敏「慎治」

この人がこれだけガンダムオタクだったとは知らなかった。なんせ、本書で紹介されるガンダム関係の記述は、そのまま研究書に書き写せるほど微にいり、細をうがつものなのだ。ぼくも一応ガンダム世代なので、初代のガンダムに関しては全作品テレビシリーズで…

菊地秀行「トレジャー・キャッスル」

菊地秀行といえば、出発点がソノラマ文庫ということで、ぼくも一連のシリーズは読んだ。その中でも特に好きだったのが八頭大の活躍する「トレジャー・ハンター」のシリーズだ。これは現時点で11作品、18冊が刊行されているのだが、ぼくが読んだのは8作…

万城目学「プリンセス・トヨトミ」

久しぶりの万城目作品だ。「ホルモー」を読んだ頃は、まだ誰もが万城目って誰?って思ってた頃だったのに、どうでしょうこの出世ぶりは。第二作の「鹿男」はなんとなく気がすすまなくて読んでないのだがこの第三長編は、タイトルのインパクトと今までで一番…

青い黄昏

青い夕方が神秘を誘う午後七時。ぼくは鼻唄をうたいながら、せせこましい町中をくねくね歩いていた。 目的地がどこかはわかっているのだが、その場所の名前がわからない。頭の中に建物の形は浮かんでいるしそこへの道順も知悉している。でも、そこがいったい…

映画「ザ・ミスト」

今日たまたま実家の衛星放送でこれを観た。観よう観ようと思って観たのではなく、たまたまつけたらや ってたので、観たのである。そしてラストまで釘付けになって、エンディングで凄い衝撃を受けたのだ。 いま、この記事を書く前に「ザ・ミスト」で検索した…

野村美月「文学少女と恋する挿話集①」

めでたく完結したこのシリーズ、まさかの新展開となって、うれしいやら戸惑うやらの混乱した心情なの だが、その前に本編に付随するこのエピソード集を読むことにする。 ここに収録されているのは本編では語られなかったサブストーリー。あの話の裏ではこん…

東雅夫「怪談ハンドブック 愉しく読む、書く、蒐める」

怪談のエキスパートといえば、この人なのである。いままで、ホラー系のアンソロジーやホラー作品の解説で名前を見かけて、ああこの人はこの分野に明るい人なんだなくらいの認識しかなかったのだが、本書を読んで、その生粋の怪談マニアっぷりにお見逸れしま…

上田早夕里「魚舟・獣舟」

この人は2003年に「火星のダーク・バラード」で第4回小松左京賞を受賞してデビューした人なのだが、この賞の受賞作はいままで一冊も読んだことがなく、いったいどれほどのレベルの作品が集まっているのかわからなかった。だが本書を読んで俄然興味がわ…

マルコス・アギニス「マラーノの武勲」

もともとぼくは無宗教で、神の存在はこれっぽっちも認めていない。しかし、宗教を否定しているわけではなく、それぞれの宗教の成り立ちや歴史の中での役割などには興味をもっている。 そう、人類の歴史を語る上で宗教というものは避けて通ることのできない重…

古本購入記 2009年4月度

一言メッセージでも書いてるが、いま図書館で借りているマルコス・アギニスの「マラーノの武勲」とい う本を読んでて、これが4月29日に返却予定だったのにまだ読了していないのである。残すところあと 100ページなのでもうすぐ読み終わるのだが、予約…

道尾秀介「鬼の跫音」

この人は以前「シャドウ」を読んでミステリとしての技巧は良かったが、話の要となるある事実に違和感をおぼえてあまり評価しなかったのである。いってみればそれは言い掛かりのようなもので、気になったとしてもスルーしてしまえば別段不都合があるわけでも…

ダン・ブラウン「天使と悪魔」、「ダ・ヴィンチ・コード」

「天使と悪魔」の映画がこんど公開されるということで、それならばと、このラングドン教授のシリーズも紹介しておこうかなと思った次第。このシリーズのことを知ったのは、おそらくみなさんと同じ2004年の春の頃だった。このとき鳴り物入りで出版された…

彼我の境

グッコーの右上には、さなぎ谷。 ゆわえ岩にキランバ亭と見物が続く。ぼくは忙しく左右を見ながら、気もそぞろ。 昨日は諦観滝でうなだれて、牛毒の混じった雨に打たれて夜は寝込んだ。 やいのやいのと袖をひっぱるのは、まだ目も見えない小鬼たち。大きく開…

皆川博子「祝婚歌」

三ヶ月ほど皆川作品から遠のいてしまっていたので、これまた、もねさんから頂いた皆川コレクションの一冊をありがたく読ませていただいた。 これは、ほんとうに貴重な本なのである。だって、ネットで探しても見当たらないんだもの。ほんと、もねさんありがと…

一肇 「幽式」

たまたま本屋で見かけて手に取ったのが運のつき、久々にラノベを読むことになってしまった。 本書が扱うのは、タイトルからもわかるとおり霊の世界なのである。しかし、生粋のホラー小説じゃない ってとこがミソ。ただ、やはり扱っているテーマがテーマだけ…

柴田元幸編「昨日のように遠い日」

副題に『少女少年小説選』とあるが、読んでみた限りジュヴナイル小説選というスタンスではなくて、少女や少年が登場する小説のアンソロジーという感じで、おおまかにいって、大人の読み物となっている。 なお、収録されているのは13編。 ・「大洋」 バリー…

湊かなえ「少女」

これはちょっと期待はずれだった。前回の「告白」でいままでにないブラックな手応えを感じさせてくれた作者だったが、この二作目は少し要領を得ない印象を与えてしまう。内容は、簡単に済ますと二人の女子高生が、人の死というものに興味を持って、それぞれ…

山田正紀「神君幻法帖」

この佐伯俊男の魅力溢れる表紙と、山風忍法帖を想起させる魅惑的なタイトルにすっかりヤラれてしまい思わず読んでしまった。著者が山田正紀というのが少し不安要素だったのだが、圧倒的な懐かしさと興奮には抗しきれなかったのだ。だが読んでみればわかるが…

「五右衛門忍法帖」

山田風太郎の霊がぼくに乗り移る。 まるで自動筆記のように新しい忍法帖がぼくの持つペンから生まれる。ぼくはそれを書きながら、同時に読んで歓喜に震える。数ある忍法帖の中でこの作品が最高傑作になるのは間違いないと確信する。 それを自分で書いている…

伊藤計劃「ハーモニー」

しら菊さんから聞いて初めて知ったのだが伊藤さん3月20日に逝去されていたのである。享年34歳ということで、死ぬのに歳なんて関係ないのだが、ぼくより若いこんなに才能豊かな人がこの世を去ってしまうなんてちょっとショックだった。「虐殺器官」と本…

古本購入記 2009年3月度

今年三度目の古本購入記である。では早速書き出してみよう。 「おやすみ、こわい夢を見ないように」 角田光代 「トリップ」 〃 「夏の葬列」 山川方夫 「老妓抄」 岡本かの子 「思いわずらうことなく愉しく生きよ」 江國香織 「蛇神様」 高木彬光 「マゼンタ…

初野晴「1/2の騎士~ harujion~」

この人とのファースト・コンタクトは図書館で目にした「漆黒の王子」という本だった。ただそのタイトルのニュアンスだけで、おもしろそうなのかな?と興味はもったが、結局読むことはなかった。次に目にしたのは本屋でみた「退出ゲーム」という本。本の表紙…

津原泰水「綺譚集」

この人の本を読むのは初めてである。10年ほど前に「妖都」で一般向けデビューしたときに、綾辻行人や小野不由美や菊地秀行らからの絶賛がオビに書かれていて目を引いたのだが、触れることなくいままできた。途中「ペニス」なるなんとも大胆なタイトルの本…

セルビアの二人

教会に行ったまま帰らない君 嘘なんかついてないのに いつもぼくの先回りをして 手足を拘束してしまう アリガトウという言葉が出ないのは そう思ってないからじゃない 恥ずかしいんだよ なんだか電車の中でお年寄りに席を譲るときみたいに とても面映くなっ…

ぼくのビートルズ

ビートルズの楽曲で何が一番好きか?なんていう番組を随分昔に観た憶えがある。確かベストテン形式 で、大々的にアンケートをとってベスト50か100を発表していってたはずだ。そして、それぞれの曲 を日本のアーティストが歌っていたようにおもう。 この…

角川書店編「ドッペルゲンガー奇譚集―死を招く影」

ドッペルゲンガーといえば、自分の分身を自分もしくは他人が見てしまうという現象だ。昔から、自分自身を見てしまった人には死が訪れるといわれているが、本書ではこの現象を題材にした短編が10編収録されている。このテーマは古今東西の作家を刺激する恰…