読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

2009-01-01から1年間の記事一覧

皆川博子「奪われた死の物語」

これはなかなか素晴らしいミステリですよ。何がスゴイって、あらすじをうまく説明できないくらい入り組んでいるところが一筋縄ではいかないおもしろさに溢れている。それでもがんばって、ちょっと説明してみようか。 本書は二段構えの構成になっている。ある…

ジョージ・R・R・マーティン「洋梨形の男」

何回も書いてるが、マーティンの短篇集「サンドキングス」はイマイチだったのだ。マーティンが得意とする奇想スレスレのとんでもない発想が少し的外れであまりピンとこなかった。これはひとえに、ぼくの読解力のなさがまねいた結果なのかも知れず、いま読め…

ジョー・R・ランズデール「ババ・ホ・テップ  現代短篇の名手たち 4」

ランズデールといえば、ぼくの中ではずっと前から短篇の名手だった。彼の作品をはじめて読んだのは新潮文庫から出ていたホラー・アンソロジー「ナイトソウルズ」に収録されていた「大きな岩のある海辺で」だった。キャンプに来ていた家族を襲う未曾有の怪異…

角田光代「八日目の蝉」

愛人の生まれたばかりの子どもをさらって、逃亡する女。このシチュエーションだけを抜き出せば、同情すべきは子どもをさらわれた方の親である。だが、本書を読むうちに読み手の心には逃亡する女とさらわれた子が二人で幸せに生きてゆければいいなと願う気持…

詠坂雄二「遠海事件  佐藤誠はなぜ首を切断したのか?」

この人、みなさんご存知でした?綾辻行人、佳多山大地の激賞を受けて「リロ・グラ・シスタ」で2007年にデビューした新人さんで、この「遠海事件」は二作目。現在第三作が刊行されたばかり。 ぼくも、たまたま「読書メーター」を見てまわっているときに見…

ジャック・カーリイ「百番目の男」

驚愕の真相だということで、多大なる期待を寄せて読んでみたのだが、なるほどこの真相には驚いた。 前評判を踏まえた上での驚愕なので、これ、真っ白な状態で読んでいたらさぞかし驚いたことだろう。 何がスゴイといって、こんなことを思いつく発想に感嘆し…

東野圭吾「新参者」

加賀恭一郎のシリーズについては、まったくの『新参者』でございます。 でも、読んじゃった。東野氏が直木賞を獲った直後に刊行された「赤い指」を読んで、初めて加賀刑事を知ったのだが、はっきりいって堂に入った名探偵ぶりは感心したものの、話自体がいさ…

ヘレン・マクロイ「暗い鏡の中に」

マクロイの二冊目として本書を選んだ。こちらは早川文庫のマクロイ絶版本である。創元のマクロイ復刊の反響が良ければこちらも復刊されるんじゃないかと思うのだが、どうだろう。 実をいえば、本書のことは随分以前から知っていた。1992年にカタログハウ…

古本購入記 2009年9月度

あのね、キングの「悪霊の島」が、いまだに行き着けの本屋に入荷されないのね。だから実物もまだ見れ てない状態なのでございます。いつも不思議に思うのだが、欲しいと思う本に限ってなかなか入荷されな いのだ。先月も「幽霊の2/3」を手に入れるために…

結城充考 「プラ・バロック」

物語の始まりは秀逸なのだ。京浜工業地帯を舞台に、部屋中を血に染める凄惨な首切り殺人と冷凍コンテナから発見される十四体の凍った死体。これだけでがっちり心をつかまれてしまう。だが、話はそこから少しづつ失速していく。仮想空間に遊ぶ正体不明の人物…

「死ニカタ」

先生は言った。「あなたたちも、一生懸命なさい」 ぼくたちは戸惑った。なぜなら、先生が何を強要しているのかがわからなかったからだ。でも、聞きなおすような雰囲気じゃなかった。先生の耳から湯気が出てるってことは、かなりヒート・アップしてる証拠だも…

カズオ・イシグロ「夜想曲集 音楽と夕暮れをめぐる五つの物語」

カズオ・イシグロの短編は以前に集英社ギャラリー「世界の文学 イギリスⅣ」に収録されていた「夕餉」という作品を読んだことがあったのだが、非常に短い作品で日本の家族の食卓の風景を描いているだけなのに厳かで暗い雰囲気の横溢した作品だったと記憶して…

厭な夢

昨日と同じだ。あいつが出てきて、ニヤッと笑うところまで一緒だ。 ぼくは、また最初に戻って同じ道を歩きはじめる。ゆっくりとだが、確実に。しかし、歩みは遅い。不思 議と前に進まない。これが夢のもどかしさ。いくらがんばっても無理なのである。 奇妙な…

薬丸岳「天使のナイフ」

なかなか読み応えがあった。なぜだか自分でもよくわからないのだが、もともと江戸川乱歩賞は少し嘗めていて、読むに値する本が少ないように感じてたのだが、これは良かった。 何が良いといって、ここでは犯罪を描くだけではなくてそれに巻き込まれた人々の苦…

北方謙三「逃れの街」

北方作品を読むのは、今回が初めてだ。海外のハードボイルドは一通り読んできたが、国内の作品はあまり読めてないのが現状なのだ。だから、結城昌治も大藪春彦も河野典生も読んでないし、志水辰夫も原尞も香納諒一も東直己も読んだことがない。どうも国内の…

スティーヴン・キング「夕暮れをすぎて」

いま文藝春秋のHPで、やっと「悪霊の島」の表紙が確認できた。うれしいことに、また藤田新策の絵だった。前回の「リーシーの物語」は松尾たいこだったので、がっかりしてたのだ。いやいや、決して松尾さんのイラストが嫌いなわけではなくて、彼女のポップ…

野村 美月 「“文学少女”と恋する挿話集 2」

この本の前に『もうひとつの“文学少女”の物語』といわれる「“文学少女”見習いの、初戀。」があったのだが、すっ飛ばしてこっちを先に読んでしまいました。だって、この挿話集の主人公がななせだと聞いたものだから、いてもたってもいられらくなってしまった…

ヘレン・マクロイ「幽霊の2/3」

この本を読むまでの道のりは長かった。復刊リクエストを呼びかけたこともあったなぁ。かといって、ヘレン・マクロイの熱烈なファンなのかと言われれば、すごすごと引き下がらねばならない。だって、彼女の本を読むのは本書が初めてなのだから^^。でも、な…

ジョージ・R・R・マーティン「タフの方舟 1 禍つ星」

この人の本をほんと久しぶりに読んだのだが、これがめっぽうおもしろい。もう、最高ってのを突き抜けちゃって、いったいどういう賛辞を送ったらいいのかわからないくらいおもしろかったのだ。 なんせ、この人のSFには少々痛い目にあってますからね。ほら、…

皆川博子「薔薇忌」

久しぶりの皆川作品。手軽に読める薄さが、いっそ憎らしい。そんな思いをしながら、やはり堪能しきっ て満足の吐息と共に本をおく自分がとてもいじらしい。 たゆたう大河のように壮大で、しかし表面に見えない部分では常になんらかの作用がおきて、変化に富…

『クラチカート』

毎月11日にクラチカートという魔物がやってきて、誰かが生贄にされてしまうという無慈悲な世界。 ぼくは毎月いつ自分の番がくるのかと、びくびくしながら暮らしている。 クラチカートとは『煉獄の蜘蛛』という物騒な異名がつけられているとんでもない化物…

京極夏彦「厭な小説」

これ分類が難しいなぁ。一応「国内ホラー」にしといたけど、ホラーかといえば、ちと弱い気もするんだよな。でも、ミステリって感じでもないしね。ま、これでいいか。というわけで、いままで長い間読まずにきた京極作品なのである。ずっとずっと以前に「狂骨…

厭な映画

最近は映画もあんまり観ることがなくなったのだが、一頃は熱狂的な映画ファンだった時期もあった。丁度高校ぐらいから結婚するまでの間は、読書と並行して大方の有名な映画は吸収しつくしたと思ってる。 そんな時期に、やはり若気のいたりといおうか、それと…

古本購入記 2009年8月度

今月はどうしたことかスティーヴン・キングの本が文藝春秋から二作品も刊行されるみたいで、なんだか 久しぶりにワクワクしております^^。キングの作品は単行本は「不眠症」から、文庫本は「グリーンマ イル」からとんとご無沙汰でありまして、以後も出て…

貴志祐介「新世界より(上下)」

ようやくこの大作を読了した。読み始めるまでが長かっただけで、読み出したら、あっという間だった。 久しぶりの貴志作品、世評も高くブログ仲間さんの評価も良かったので、おもしろいのは間違いないとわかっていたが、読み終えてみれば最初勝手に想像してい…

アンドレア・M・シェンケル「凍える森」

1950年代半ば、ドイツのバイエルン地方の南で一家惨殺事件が起きた。殺されたのは6人。農場主であるダナーとその妻。彼らの娘であるバルバラ。バルバラの幼い子であるマリアンネとヨゼフ。そして殺された日にこの家にやってきたなんとも不運な使用人の…

サマー・ブリーズ

サマー・ブリーズは音の矢。鼓膜を突きぬけ、脳に突き刺さる。 ぼくは水パイプから得体の知れない煙を吸いながら、隣に侍らせたとびきりの美女の胸を弄んでいる。 気持ちはとてもハイ。こんなに素敵な気分になったことはない。 いきなり冷たい爪が手の甲に食…

ジェイムズ・グレイディ「狂犬は眠らない」

これ、本選びの嗅覚のみによって買ったんだけど、なかなか良かった。あらすじは非常にシンプル。5人の登場人物がいるのだが、これがみなCIAの諜報員で、過去に任務でひどい目にあわされて、いまは政府が管理するシークレットな精神病院に収容されている…

百怪の会編「恐怖のネット怪談」

実話系ホラーに目覚めたので、読んでみた。本書はネットの怪談系サイト「妖怪百物語」「Ghost Tail」「きょうふの味噌汁」の三つのサイトから許可を得て編纂されたそうで、それぞれのサイトから選りすぐりの怪談が集められている。ということなのだが、正直…

小池真理子「律子慕情」

小池真理子といえば、もう十年以上前にジャパン・ホラーの傑作だときいて「墓地を見おろす家」という本を読んだのだが、これがまったくもってしょうもない本で、いったいこれのどこがおもしろいんだと頭を傾げたことがあった。それ以来この人の本は読むこと…