話題の作品集である。本書の著者がかの作家の変名だというのは、おそらくそうなのだろうと思われる。だって、各作品の作風がまったくそのままなんだもの。というわけで各作品のタイトルをば。
・「長い旅のはじまり」
・「井戸を下りる」
・「黄金工場」
・「未完の像」
・「鬼物語」
・「鳥とファフロッキーズ現象について」
・「死者のための音楽」
感触としては、怪談というより幻想文学っぽい仕上がりだった。それというのも、ここで語られる一連の怪異の中には一定の割合でもってウェッティな要素が加えられているからだ。だから、それぞれの作品を読んで怪異に連なる残酷な描写や、気持ちの悪い場面よりも心に響くせつなさや哀切な部分が印象に残り恐怖をやわらげるのである。
それぞれ独特の切り口でこの世のものではない物語が語られるのだが、そこには叙述を逆転したりミステリ的なオチをつけたりといったテクニックが施されており、最後まで読んで円環が閉じる構成には、やはり新人にはない安定感があったと思う。
しかし本音をいえば少し物足りないと感じもしたのだ。全体を通してみると、どっちつかずの感があり、これだったら恐怖か哀切どちらかにウェイトをおいた方がよかったのではないかとも思うのである。
因みに「鳥とファフロッキーズ現象について」を読んでる間、ぼくの頭の中ではハシビロコウが登場しておりました^^。