「耳カキでこそげ落とすような感じで発音してください」
そんなこと言われても、それがどういう感じなのかがわからない。っていうか、わかる人いる?
すると、隣に座っていた若い女の子が大きな声で文例を読み上げた。
それは、まさしく『耳カキでこそげ落とすような感じ』に聞こえた。なーるほど、そういうことなのね。
「よくできました。では次。イエンチ・デ・ラ・メント・フエナ・スール・・・・これは蝶の羽を運ぶ蟻
の強弱で発音してください」
う~ん、これはまた難題だ。先生の発音はおそらく完璧なのだろうが、それを表現する比喩があきらかに
おかしいだろ。
でも、またそれを完璧に発音する勇者があらわれた。
それはやはりどう聞いても『蝶の羽を運ぶ蟻の強弱』なのだ。なんなんだ、ここは?おれはいつからここ
にいるんだろう?それにこの教室、微妙に傾いてね?なんか先生両足広げて踏ん張ってるし。さっきから
なんか左側に引っぱられるんだよね。これって完璧教室傾いてるっしょ?
そうこうしてるうちに懺悔の時間がきてしまう。これは、できればやりたくないんだな。
なぜなら、懺悔をすれば地獄行きが決定されるもん。地獄行きたくないもん。地獄に行けば、怖い獄卒が
待ってるし、そいつらの悪行って悪魔どころじゃねえし、絶対痛いことされるに決まってるし。おれって
痛いのだけは我慢できないんだよね。
でも、それは無慈悲に履行される。一番目のおじいさんは天国。二番目の男の子は地獄。三番目の女の子
も地獄。四番目のおっさんは天国。五番目の犬は地獄。六番目のきれいなお姉ちゃんは天国。え?あの人
って長澤まさみじゃね?やっぱりまさみちゃんは天国かぁ。そうだよなぁ。まさみちゃんが地獄のわけな
いもんな。
で、おれはやっぱり地獄なんだな。整理券もらって列に並ぶと、やがてチリンチリンと鈴の音がして大き
な自転車がやってくる。その後ろにはリアカーが引っぱられていて、百人ほどの人間が運搬できるように
なっている。もちろん漕いでるのは獄卒だ。見るからに卑猥で爛れていておぞましい。順番がまわってき
て、おれはリアカーに登ろうと一生懸命荷台に足をかけるんだけど、なかなか登れない。それでもがんば
って足をかけようとしてると・・・・・・・・「痛い、痛い!」
妻の声で目が覚めた。