読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

「フランク・オコナー短篇集」

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 この人はアイルランドを代表する短篇の名手ということで、何年か前に村上春樹がこの人の名を冠した短篇賞を受賞してたのが記憶に新しい。でも、ぼくはこの人の作品を読んだことがなく、単純に名前を見てフラナリー・オコナーと混同してしまうなと思ったくらいだったのである。いってみれば。ジェイムズ・ジョイスヘンリー・ジェイムズヘンリー・ミラーをなんとなく混同してしまうような感じね^^。

 それはともかく、本書には11編の短篇が収録されている。タイトルは以下のとおり。

 「ぼくのエディプス・コンプレックス

 「国賓

 「ある独身男のお話」

 「あるところに寂しげな家がありまして」

 「はじめての懺悔」

 「花輪」

 「ジャンボの妻」

 「ルーシー家の人々」
 
 「法は何にも勝る」

 「汽車の中で」

 「マイケルの妻」

 ここで描かれるのは、アイルランドで暮らすごく普通の人々の生活だ。だが、そこは短篇の名手といわれるだけあって、ミステリ的手法を用いた作品や子供が語り手の作品やユーモラスな語り口の作品などがあって飽きさせない。なかには、一筋縄ではいかない作品もあったりして、けっこう奥が深い印象を受けた。この11編の中で一番印象に残っているのはやはり同社の「アイルランド短篇選」にも収録されている「国賓」だ。これはアイルランド紛争を背景に描かれる戦争悲劇の一種で、語り口が軽妙なだけに、その非情で不条理な部分が浮き彫りにされいつまでも後を引く印象を与える。

 同じ背景で描かれながらも「ジャンボの妻」はスピーディな展開に手に汗握る思いがした。

 また、ミステリ的な作品としては「法は何にも勝る」が秀逸。これは謎が解決されてすっきりするから精神衛生面的にも具合がいい。逆に結末がぼかされて謎が謎のまま終わってしまうのが「花輪」、「マイケルの妻」、「汽車の中で」なのだが、この三編の中では「マイケルの妻」に軍配があがる。これは人生の陰影がうまく表現されていてすごく惹きつけられるのだ。結局何がどうなったのかはわからなくてもね。

 家族を描いた作品では「ぼくのエディプス・コンプレックス」や「はじめての懺悔」のような子供を語り手にしたユーモア作品が目を引くが、「ルーシー家の人々」のように厳しい現実に直面するような話もあるので侮れない。

 というわけで、よくよく考えてみるとぼくはアイルランドが結構好きなのだ。実際行ったこともないし、向こうの情景を詳しく知っているわけでもないのだが、フラン・オブライエンウィリアム・トレヴァーやちょっと違うかもしれないがアリステア・マクラウドの作品などを読んで彼の地に憧れを持つようになったようである。いや、憧れというか郷愁のような感覚だ。