読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

木原浩勝 中山市朗「新耳袋 現代百物語第四話」、小池壮彦「幽霊物件案内2」

イメージ 1

 もねさんの紹介で読んでみることにした。こういう実話系怪談の本をまとめて読んだことがなかったのでなかなか新鮮な体験だった。

 まず、「幽霊物件案内2」である。これはさほど怖くない。もねさんが取り上げられていた第九章の封印されたホテル旧館に纏わる話がやはり白眉である。これは因縁話でもあるが、それが散開している印象を与えて秀逸。意味がわからないと思うが、あまり聞いたことがない類の怪談話である。やはりこういう話には定番のような決まり事があって、変な音がする変な声が聞こえるとか、物が動くとか、灯りが消えるとか、金縛りにあうとか、体験すれば怖いのだろうが怪談文芸として読んだ場合さほど怖くない現象があるのだが、そういうよくある話と違う次元の話が本当に怖い話だと思うのである。そういった意味で、このホテル旧館の話は秀逸なのだ。

 で、こちらが本命なのだが「新耳袋 第四夜」である。これはかなり楽しめた。メインはやはりラスト第十二章の「山の牧場にまつわる十の話」なのだが、他の作品もなかなか怖い。あたりまえの事だが、ここで紹介される話は完結していない。それぞれあれは何だったんだろう?とか、どうしてそうなったのかはわからないという感じで話が終わるのである。そこに怪談の怖さが凝縮されている。わけがわからないから怖いのだ。身の危険を感じる恐怖と理解不能の恐怖。それが相乗効果をあげて、本当に怖い話ができあがる。だから、正味の幽霊譚よりも「まれ人」「托鉢の坊主」に出てくる一つ目の巨人とか「ばあさん」に出てくる『言葉を発するような形状じゃない口をもった白髪の老婆」とかUFOに纏わる「黒い男たち」なんて存在に心底から震え上がってしまうのである。もちろん幽霊譚にも怖いのがあって「十三回」「芸妓さん」「八甲田山」なんてのは誰が読んでも薄気味悪い感触を背中に張り付かせてくれること間違いなしだと思う。

 で、メインの「山の牧場」だ。これは決して体験したくない類の話であって、理解が及ばないという意味ではこれに勝るものはない。著者自らが体験した話なので、話の詳細が異様にリアルで怖い。また、本書の表紙をめくれば、この山の牧場の詳細図が載っているのだが、これがさらに恐怖を盛り上げる。ここで描かれるのは未知との遭遇だ。だがそこに少量の不愉快なエッセンスがまぎれているから、始末が悪い。

 本来なら探究心を刺激されるような体験が、悪夢の体験に変貌してしまっている。ここでも「黒い男たち」が暗躍している気配があるのだが、これは勘繰りすぎだろうか。

 というわけで、夏の夜に怪談文芸で楽しませてもらった次第である。もねさん、おもしろい本の紹介ありがとうございました。もしかしたら、これに味をしめてこういう実話系怪談読み続けていくかもしれません^^。でも、やっぱり一番怖いのは、これももねさんから紹介していただいたネット怪談の「子取り箱」かな。興味のある方はどうぞ→http://blog.livedoor.jp/hako888/archives/50517605.html