ラノベを読むようになってから、年甲斐もなくカラフルな背表紙の並ぶ棚の前でおっさんがウロウロするようになったのだが、たくさん並んでいる本の中にこれだ!と思うものを見つけるのはそうそうあることではない。そんな中、この文庫からは読む本はないだろうと思っていたのが『MF文庫』だ。緑で統一された背表紙の上部についているキャラクターの絵を見てもソソられるものはないし、タイトルを見てもどちらかというとアニメの原作っぽい作品が多い気がして、あまり手が出なかった。
だが、何事もあきらめてはいけない。そういう縁遠いと思っていたところにもやはり自分向けの本はあるのである。
本書の著者である清水マリコはもともと『少女童話』という劇団を主宰し脚本を書いていた人だそうで、そういった意味では「腑抜けども、悲しみの愛を見せろ」で注目した本谷有希子と同じスタンスなんだなと親近感をもった。
事実、本書の中に登場する芝居の脚本は、以前に『少女童話』で上演された「ザ・ゴールデンアングラ」という芝居と同一のものだそうで、物語の全容はあきらかではないけど、なかなか気味の悪いホラーのようである。
だが、本書の本筋はホラーではない。ファンタジック・ラヴ・ストーリーってとこかな?
話の組み立て方としては、はっきりいってお粗末な感がぬぐえない。唐突に話がはじまるところに余裕はないし、物語世界の辻褄合わせが曖昧で説得力に欠ける。ファンタジーの要素と現実の割合が不確定で信頼性に乏しい。とまあ、難をあげれば片手以上はでてくるだろう。
だが、全体を通しての印象は悪くない。大きな声ではいえないけれど、タイトルからも容易に推察できるように本書の魅力は『妹萌え』なのである。そこにロリコン趣味的な卑猥な感じはない。だから好感をもった。健康的で快活、いたって健全な『妹萌え』なのだ。
物語は高二のヨシユキのかばんの中にヘンな本が紛れ込んでいるところから幕をあける。見覚えのない本だし、中身はほとんど真っ白。気味悪く思ったヨシユキはそれを放置しようとするのだが、そこへいきなり現れたのが、その本の妖精だというボーイッシュな女の子。彼女がいうには、ヨシユキの手にする白い本は、ある芝居の脚本で、その物語が登場人物のひとりひとりに分かれてバラバラになって散らばってしまったから、一緒にその人たちを探して欲しいというもの。薄気味悪く思いながらも、ヨシユキは女の子と共に失われた物語を探すことになるのだが・・・。
ひと夏の経験として、ヨシユキは女の子と共に再生と喪失の物語を生きることになる。何度もいうが、本書は未完成だ。作品としては八分咲きといったところか。だが、これで見切ってしまうのには非常に惜しい何かがあるのも確か。見極めるためにも、彼女の作品は何作か読んでいこうと思う。