読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

弐藤水流「リビドヲ」

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ちょっと写真うつりが悪いけど、帯の文句はわかると思う。この面子が絶賛してるとなると、ちょっと期待してしまうのは仕方がないことだろう。新人なのに、この鳴物入りのデビューはいったいどうしたことだ?それに、週間現代では貴志祐介も書評に取り上げていたことだし、期待してもいいんじゃないか?

と、こういう経緯で本書を読むにいたったわけだ。

幕開けはいたって申し分ない。昭和三十年代の映画業界を舞台にした青春物のような感触だ。そこに異常な出来事が侵食してくる。二枚目だが薄幸の主人公。母に似た映画女優。暗躍する切り裂き魔。天井裏に隠されていた日記。やがて、そこにバブル景気真っ盛りの東京で起こる連続殺人事件が絡んでくる。肛門を中心にして背と腹が50センチ近くも裂けてしまっている異様な死体。警察は凶器の断定もできない始末。過去の出来事と現在の出来事が交錯し、やがて物語は驚異の結末を迎える。

大雑把に説明するとこういう感じ。どう?おもしろそうでしょ?でもね、やはり本書には新人ゆえの瑕疵が散見されるのである。まず言っておきたいのは、過去と現在が交錯する構成処理の杜撰さ。効果を狙ってのことだろうが、これは成功してるとはいえない。作品世界を理解しづらくしている上に、読むリズムというものを大きく阻害している。また、阿部定事件を映画に絡めたり、真相解明に量子物理学を持ってきたりと意欲的な試みがなされているのだが、これも取って付けたような印象をぬぐいきれない。

物語が終わってみれば、あの鈴木光司がリングシリーズで試みたバーチャルと現実の境目のあやふやさのようなものが強調されているのがわかるが、この結末の付け方は凡百の作家がもうすでに使っている。そういった点では目新しさもなかった。そしてなりより一番の関心事だった現代パートの連続殺人の方法がレイ・ラッセル「インキュバス」とまったく同じものだったのでのけぞってしまった。まさかそんなことではないだろうなと危惧していたのが的中する結果となったわけだ。

だが、だがである。本書はおもしろい。結果的にはそういうことになってしまう。だって、上下二段組みで350ページもある本なのに、一気に読みきっちゃったんだもの。

さて、みなさん。この感想を読んでどう思われましたか?読みたくなった?それとも読みたくなくなった?

あっ、そうそう。もう一つ言っておきたいのが、本書は一応ミステリとしても機能しているという点。警察小説としての側面も併せ持ち、ラストには意外な犯人も用意されている。その点でも先に言及した「インキュバス」を踏襲してると言えるだろう。でも、それほどカタルシスは得られないのだが。