女優岸田今日子しか知らないぼくにとって、本書は衝撃的だった。ちょっと踏み込んで、あの懐かしのムーミンとして親しんだ岸田今日子さんが、こんな素敵な本を書かれていたとは知らなかった。
本書は、岸田今日子さんが亡くなられる前に雑誌「メフィスト」で連載されていた短編を一冊にまとめたものである。収録作は以下のとおり。
・ 「オートバイ」
・ 「二つの月の記憶」
・ 「K村やすらぎの里」
・ 「P夫人の冒険」
・ 「赤い帽子」
・ 「逆光の中の樹」
・ 「引き裂かれて」
7編のお話があるのだが、それぞれが非常に短くすぐ読めてしまう。だから一冊読みきってしまうのに一時間かからないくらいなのだ。だが、それだけスラスラ読めてしまうにも関わらず、本書から受ける印象は、決して軽いものではない。
まずなんといっても言及しておきたいのが冒頭の「オートバイ」だ。はっきりいって、岸田今日子は知っているが、なんといっても女優が本業の人が書いたものなんでしょ、と高をくくって読んでいたらガツンと派手にお見舞いされてしまった、という感じ^^。これはほんと素晴らしいお話で、まあ読んでみてとしか言えないのが、なんともモドカシイ。これを読んでこの人の魅力に目覚めない本好きはいないのではないだろうか。
あとに続く作品もみな素晴らしい。何度も書くが非常に短い作品ばかりなので、あらすじは書かないでおくが、それぞれお茶目と残酷と官能が一斉に鳴り響くような素敵な物語ばかりで、魅了されてしまう。
この感覚は、あの皆川女史にも通じるものがあると思うのである。
というわけで、なんとなく手に取った本だったが、大変おいしゅうございました。満足でございました。
この人の本はもっと読んでいこうと誓ったのでございました。