読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

2006-06-01から1ヶ月間の記事一覧

山田風太郎「妖説太閤記」

この本を読むまでは秀吉といえば下克上であり、立身出世の鑑として貧しい出自から己の才覚だけで天下をとった男というイメージがあった。 しかし、しかしである。この風太郎太閤記の醜怪で異様な秀吉の姿をみよ。 秀吉の原動力は『女』なのだ。ただ『女』を…

音楽のこと^^

我那覇美奈の「風になりたい」が大好きだ。なんて気持ちのいい曲なんだろう。爽やかで素敵なメロディ だ。女性アーティストの曲では他にBonny Pinkが好きだ。日本人離れしてるセンスとシャープ な歌声が気持ちいい。 木村カエラもいいと思う。モデ…

グロリア・ウィーラン「家なき鳥」

この本YAなのにかなり厳しい現実が描かれている。 インドの片田舎で暮らすコリーは十三歳。父母がなけなしの金を集めてなんとかやりくりした持参金を持って嫁に出される。しかし夫になるはずの十六歳のハリは病に蝕まれていて、結婚後すぐに死んでしまう。…

舞城王太郎「みんな元気。」

メフィストから出てきた作家とはいえ、いまではこの舞城君をミステリ作家という範疇に縛りつけておく ことはできなくなっている。だからこの作品も日本文学の書庫に入れた。 最近の舞城君はどうしちゃったんだろう?本書の刊行を境にとんと新刊が出なくなっ…

J・P・ホーガン「星を継ぐもの」

この本も、元々まったく読む気のなかった本だった。SFは読むけど、ハードSFとなると専門的な知識がないので二の足を踏んでいた。 じゃあ、どうして本書を読む気になったのかというと、それは当時(1986年)指針として大変重宝していた文春文庫の「東…

谺健二「未明の悪夢」

阪神淡路大震災がもう十年近く前のことだとは。 ぼくは当時京都の実家に住んでいて直接の被害は受けなかった。その瞬間も寝ていて気づかず、最後の 10秒ほどを体感しただけだった。しかし、その時に体験した揺れはいままでの生涯でいちばん強く感 じた揺れ…

マーガレット・セントクレア「どこからなりとも月にひとつの卵」

この作品はサンリオSF文庫の中でも人気の高い作品で多大な期待をよせて読んだのだが、見事にコケた^^。ほんと期待ハズレもいいところだった。 数々の本書に関する言及から予想していたのは、もっと叙情的な、感傷的な作品だったのだ。 しかし、作者の描…

本岡類「真冬の誘拐者」

新潮ミステリー倶楽部というシリーズがあったのをご存知だろうか。第一回配本は1988年10月。 景山民夫「遥かなる虎跡」、逢坂剛「さまよえる脳髄」、佐々木譲「ベルリン飛行指令」、日下圭介「黄 金機関車を狙え」の4作だった。その後コンスタントに…

ずっとずっと

よく泣くね なにも出来ない君 いつも、しかめっつらして 小さな手は何をつかもうとしてるの? 時々澄ました顔をするね じっとして どこかを見つめて 何を笑ってるの? 寝てる君を見てると不安になるときがあるんだ あんなによく動く手足が止まってるのが信じ…

クリスチアナ・ブランド「疑惑の霧」

10年以上前に早川のポケミス1600番突破記念として、幻の名作が二十点復刊されたのだが、その中の一冊が本書だった。他にもフェラーズ「間にあった殺人」、カー「毒のたわむれ」、ブレイク「証拠の問題」、ヘアー「ただひと突きの……」などが復刊された…

原田宗典「優しくって少しばか」

何気なく読んでみたら、素晴らしい作品ばかりなので驚いてしまった。 本書には6編収録されている。 ■ 優しくって少しばか ■ 西洋風林檎ワイン煮 ■ 雑司ケ谷へ ■ 海へ行こう、と男は ■ ポール・ニザンを残して ■ テーブルの上の過去 それぞれのタイトルから…

ローリー・リン・ドラモンド「あなたに不利な証拠として」

もともと早川のポケミスから出ていた本なのだが、ミステリ色は薄い。警官が出てきて事件も起こるのだが、ミステリとしての特色はないのである。では、いったい本書には何が描かれてるのか? 本書には5人の女性警官を主人公にした短編が10編収められている…

高橋源一郎「惑星P-13の秘密」

一時期この人に注目していたことがある。 きっかけは「さようなら、ギャングたち」だった。この本はある意味カルチャー・ショックだった。 野田秀樹の戯曲にも通じるナンセンスさと、たぐいまれな言葉のセンス、そしてポップ文学としての明 日を担ってたつ躍…

ジョージ・アレック・エフィンジャー「重力が衰えるとき」

猥雑な未来というのは、どことなく魅力的である。 退廃的で狂気が日常化していて、そこへもってドロくさいごちゃごちゃした機械文明がわが物顔であふれかえっている。犯罪が生活の一部になっている。映画「ブレード・ランナー」が魅力的だったのも、そういう…

吾輩は主婦である

反則だ。まったく反則だ。 いま、TBS愛の劇場で宮藤官九郎脚本、斉藤由貴主演で「吾輩は主婦である」をやっている。 迂闊だった。まさか、お昼の時間帯にクドカンが進出するとは思ってもみなかった。 ビデオに録画してみてみたら、やっぱりおもしろいじゃ…

せつないが二つ

ところであなたは 怒っているのか 泣いているのか 歯ブラシ一つと、ちぎれたボタン それがぼくの全財産 心が楽しむ素敵な音楽 ぼくが与える唯一の喜び あなたはわかっちゃいない てんでわかっちゃいない

中村うさぎ「家族狂」

中村うさぎといえば、いまでは整形手術したり買物依存症を売りにして本を出したり、色物っぽい感じなのだが、本書を刊行した当時(1997年)はジュブナイル専門の作家という認識しかなかった。 そんな彼女が一般向けに出した初の本ということで最初は気に…

カート・ヴォネガット・ジュニア「スローターハウス5」

散文の集会にして総合的にはメタSFの体裁をとりながらも、おふざけとブラックなユーモアの散りばめられた戦争悲劇である。 主人公ビリー・ピルグリムのたどるトラルファマドール的時間転移旅行は、およそでたらめでありトラルファマドール的に解釈されなけ…

山口瞳「血族」

本書は、山口瞳自身の家系の謎に迫る本である。自分の過去を語ろうとしない母。美しく奔放で、どち らかというと豪放磊落な性格の母の出生について氏は何も知らなかった。幼い頃に見た光景、家に出入 りしていた人たちの言葉、そして数々の資料をひもといて…

P・K・ディック「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」

傑作だ。映画「ブレード・ランナー」も映画史に残る傑作だったが(ルドガー・ハウアーの表情の秀逸なこと)、原作である本書はさらによい。 映画ではアンドロイドと人間の死闘に焦点が絞られてたが、原作ではその部分よりも異常な未来という世界観が詳細に描…

野沢尚「深紅」

一家惨殺事件が起こり、ただ一人修学旅行に行っていたため生き残ってしまった少女奏子。父、母、ま だ幼い弟二人。家族全員が顔が陥没するほどハンマーで殴られ、無残に殺されてしまった。 奏子は心に傷を負う。深く黒い大きな傷。修学旅行先のホテルから担…

一段登る

次のステップ もう一段階上の自分 はやくなりたいけど なかなか乗り越えられない大きな段差 勇気とか、努力じゃない そんなものは必要ない ただ一歩踏みだせばいいんだ それだけでいいんだ でも、それが難しい そんな簡単なことに何年も時間をとられてしまう…

首藤瓜於「脳男」

本書に登場する『脳男』は、その特異なキャラクターにまず驚かされる。 感情を持たず、自律神経を自ら操るという風太郎忍法帖も真っ青の化け物なのだ。 そしてこの化け物が、今まで見たこともない世界を我々に見せてくれるのである。 人間の出発点である赤ん…

ヨナ・オバースキー「チャイルドフッド」

あまりにも忌まわしいアウシュビッツを、子どもの眼を通して描いた秀作だった。一時間ちょっとで読めてしまえる本なのだが、これがかなり堪える。厳しい現実を目の前にして、大人は子に正視することを回避させようとするのだが、すべてを隠すことはできない…

いま、このときを

津波にのまれてしまって、すべてが埋没したら なにもかもが消えてしまって、みんないなくなったら 空から隕石が落ちてきて、地球を破壊してしまったら そんな日がくるとしたら そんな日がくるとしたら そんな日がくるとしたら ぼくは、 ぼくは、 ぼくは、 何…

上原隆「友がみな我よりえらく見える日は」

啄木の有名な詩の一節を冠する本書には、様々な人たちの人生模様が描かれている。 自分の容貌にコンプレックスを抱き、恋愛経験のないまま単調な毎日を淡々と過ごす46歳のOL。 人が良すぎて人生の階段を踏み外し、ホームレスとして生活する50歳の男性…

イアン・コールドウェル/ダスティン・トマスン「フランチェスコの暗号」

実存する古書「ヒュプネロトマキア・ポリフィリ」に隠された秘密が多くの人の人生を狂わせる。プリンストン大学を舞台にこの魅惑的な謎が五百年の時をこえて解明されるのか? といった感じの見出しがぴったりくる本書は、まずその問題の本「ピュプネロトマキ…

村山由佳「天使の卵」

あまりにも直球すぎて、完全にやられてしまった。 土曜に献血に行くついでに立ち寄った古本屋でなんとなく買ってしまった本書。献血ルームで読み始めたら、ついつい引き込まれてしまった。 19歳の予備校生 歩太と27歳の精神科医 春妃との短い恋愛を描い…

大きな木

晴れた空は 明日に向かって伸びていく 点在する雲の影は ぼくの心をかき乱す 君は誤解してるよ ぼくはケチな奴なんだ 自分をよく見せたいし 人に頼ってしまうし、非を認めない 往生際の悪い性格なんだ それでも、いっぱしの口をきいて、人に意見したりする …

マイケル・ギルモア「心臓を貫かれて」

本書を読むまで、このゲイリー・ギルモア事件のことはまったく知らなかった。 その当時は、かなりセンセーショナルな事件として日本でも雑誌などで騒がれたらしいのだが、記憶に はない。 さて、ではそれがどんな事件だったのかということなのだが、この事件…