読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

高橋源一郎「惑星P-13の秘密」

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一時期この人に注目していたことがある。

きっかけは「さようなら、ギャングたち」だった。この本はある意味カルチャー・ショックだった。

野田秀樹の戯曲にも通じるナンセンスさと、たぐいまれな言葉のセンス、そしてポップ文学としての明

日を担ってたつ躍動感が横溢してて、とにかくシビれた(←死語^^)。

小説にこんなことができるのか!と狂喜乱舞したのを憶えている。未読の方がおられるのなら、あらす

じのさわりだけでも紹介したいところなのだが、この奇妙で愛しくて刺激的な世界を紹介するなんてこ

とは不可能だ。続けて読んだ「優雅で感傷的な日本野球」も最高だった。第一回三島由紀夫賞を受賞し

たこの記念すべき傑作は、野球に興味のないぼくが読んでも最高に楽しめた。

この時点で、ぼくは高橋源一郎は天才なんだと信じて疑わなかった。でも、しばらくしてから読んだ「

虹の彼方に」を読んでテンションが下がり、「ペンギン村に陽は落ちて」で完全にクールダウンしてし

まったのである。

最近は、日本の文豪に材をとって「日本文学盛衰史」や「ミヤザワケンジ・グレーテストヒッツ」なん

か書いてるが、どうも官能小説っぽくなってるようで未読である。そのものずばりの「官能小説家」や

「あ・だ・る・と」なんてのも出てる。また昔のような作品を書いて欲しいものだ。

というわけで「惑星P-13の秘密」である。

本書は壊れてしまって、本を読むことしかできなくなってしまったロボットが読んでいる本が断片的に

紹介される体裁となっている。あのスタニスワフ・レムの「虚数」みたいなものだ。でも、こちらの方

がはるかにとっつきやすくておもしろい。

読んで思った。こういうのを書いてみたいなと。

「ファッティッポの言語について」や「疫病白書の抜粋」や「世界の遊園地」や「ヴァーミリオン版世

界文学全集カタログ」なんてのが出てくるのだが、それが無類に楽しい。

架空の書物というオブジェを並べた前衛芸術みたいなものだ。眺めているだけでワクワクしてくるので

ある。よくぞやってくれましたと快哉を叫んでしまったくらいだ。

本書にはあらゆる不思議がつまってるし、あらゆるユーモアもつまっている。大いに触発される本だっ

た。こういう本は大好きだ。いつまでも読んでいたいと思った。