読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

スティーヴン・キング「夜がはじまるとき」

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 キング最新短編集「夕暮れをすぎて」の二分冊後編である。本書には六編収録されている。タイトルは以下のとおり。

「N」

「魔性の猫」

ニューヨーク・タイムズを特別割引価格で」

「聾唖者」

「アヤーナ」

「どんづまりの窮地」

 今回も前回にもまして楽しめた。特筆すべき作品は二編ある。まず巻頭の「N」なのだが、これは残された手記(診療記録)によって物語が展開するという趣向が効果抜群の作品で、キング自身がマッケンの「パンの大神」の影響を強く受けた作品と言っているが、これは読んでないのでなんとも言えない。ぼくとしては、ラブクラフトクトゥルフ神話に連なる作品のように感じた。キングの巧みなところは、そこに強迫性障害を絡めたところで、患者を診ている医者がその症状に引き寄せられていく過程が鬼気迫る逸品で一読忘れがたい印象を残す。もう一編はラストの「どんづまりの窮地」で、これは究極のナスティ作品なのである。同系列の作品では筒井康隆の「最高級有機質肥料」をすぐ思いつくが、ぼくとしてはこのキングの作品の方が数段上だと思った。いろいろ読んできて、こういうお下劣なものには耐性ができていると自負していたぼくでさえ、読んでいる最中すこし気分が悪くなったくらいなのだ。間違っても絶対にお食事しながらこの作品を読むなんてことはしてはいけませんよ。そんなことしたらあなたの目の前が自身の○○でびちょびちょになってしまいますよ。

 他の作品については「魔性の猫」がばかばかしくて最高で、「ニューヨーク~」が新趣向のゴースト・ストーリーで、「聾唖者」がなんとも奇妙な感覚のサスペンス?で、「アヤーナ」が奇跡の物語だった。

 いやあ、やはりキングはおもしろい。できれば、この短編集は一冊で出して欲しかった。キングの本はやはり分厚いほうが似合っているからね。