読書の愉楽

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ピーター・ストラウブ「ココ(上下)」

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 ベトナム戦争に従軍していたマイケルは戦没者慰霊祭で昔の仲間と再会する。かつての上官だったハリーは、『ココ』を名乗る無差別殺人犯の事にかかりっきりだった。ココの起こした事件の資料を集め自分たちでチームを組んで、従軍時代の仲間だったと思われるココを捕まえようというのだ。

 

 ここで浮上するのが帰還後行方がわからなくなっているテイム・アンダーヒルという作家だ。シンガポールに在住しているらしいが、誰もその詳細を知ることはなかった。ハリーに説き伏せられたマイケルたちは、『ココ』だと思われるティムを捜索するためシンガポールへと向かうのだが・・・・。

 

 本書はすこぶる長い。上下巻合わせて1000ページ弱ある。正直いって少し冗長だとも感じたが、読了してみるとなかなか読み応えのある本だったとも思うのである。

 

 ホラー文庫の一冊として刊行されたこともあって、一応そういう雰囲気の恐怖を描いたサイコスリラーなのかと思っていたら、そうでもない。どちらかといえば、いたって普通小説に近い作りなのだ。

 

 ストラウブは、ベトナムの狂気を描いている。あの狂った戦争が抱えるはかりしれない深淵を描きだそうとしているのだ。ストラウブ自身ベトナムへの従軍経験はないらしいから、ここで描かれるベトナムはいってみれば完全無欠のフィクションだ。だが、開巻早々話題にでてくる『イアック』で何があったのかがわかる場面では思わずページを閉じてしまうほどの残酷さだった。あんなことが本当に行われていたらと思うと夜も静かに眠れなくなってしまう。まして、自分がそれを目の当たりにしていたらと思うと、生きるのが辛くなるのも当たり前だ。ベトナム帰還兵の多くがPTSD(心的外傷後ストレス障害)の症状を発症したのも頷ける。

 

 だが、本書のメインテーマはそのことではないのだ。いったい『ココ』とは誰なのか?仲間の知る者の中にそいつはいるのか?この部分がもう一つのミステリとして本書の話を牽引してゆく。『ココ』とは何を意味するのか?『ココ』の殺人はベトナム戦争とどう関係するのか?

 

 しかし、真相はベトナム戦争よりも前の時代へと探求者を導いてゆく。『ココ』の出現は、もっと根の深いところにあったのだ。

 

 常套といえば、それまでだがさすがストラウブ、そこらへんの展開はやはりうまい。

 

 本書もいまでは絶版だ。しかし比較的手にいれやすいのではないかと思われる。読んでみたいと思われた方は是非見つけていただきたい。