読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

岡本綺堂 編訳 「世界怪談名作集 信号手・貸家ほか五篇: 信号手ほか」

 

世界怪談名作集 信号手・貸家ほか五篇: 信号手ほか (河出文庫 お 2-2)

 案外こういった名作読んでいないんだよね。プーシキンの「スペードの女王」とかディケンズの「信号手」とか、他のアンソロジーでも取り上げられているから、いくらでも読む機会あったけど読んでないんだよねー。で、ここに収録されているのが

 貸家 リットン

 スペードの女王 プーシキン

 妖物(ダムドシング) ビヤーズ 

 クラリモンド ゴーチェ

 信号手 ディッケンズ

 ヴィール夫人の幽霊 デフォー

 ラッパチーニの娘 ホーソーン

 の七作品。有名所ばかりですね。定番中の定番です。読んでみた感想としては、幻想風味の作品もあったりして、怪談という括りではないなという感じなのだが、それぞれほとんど展開が読めるシンプルな造りなので、安心して読めます。

 話としては、1867年のイリノイ州の片田舎、フューリーという美しい娘が19歳という若さで亡くなってしまう。家族は嘆き悲しみ半年間はまともな生活に戻れなかったという。フューリーには清い交際をしていたワイアットという青年がいたのだが、彼も廃人同然になってしまう。

 彼女はもともと毒に対する強い耐性があり、むしろ毒性を体内から発する特異体質で、彼女の吐く息で虫が死んだとか彼女の触った草花が瞬時に枯れたという。そんなフューリーと相思相愛だったワイアットもフューリーと一緒に時を過ごすうちに、毒に対する耐性が徐々に形成され、彼自身も毒を発するようになりフューリーと同じ体質になってしまった。かれらはまさしくプラトニックな付き合いをしていた。しかし、ワイアットの彼女を求める気持ちがついに弾けとんでしまい。彼は、ある日とうとう強引に彼女の唇を奪うという暴挙に出てしまう。

 そしてフューリーはワイアットの毒性との化学反応で命をおとしてしまうのである。これぞ、運命のいたずら。元々の毒性体質だった彼女が後から形成されたワイアットの毒に負けてしまったのだ。自分のせいでフューリーが死んだという現実を突きつけられたワイアットはついに自ら命を絶とうとする。フューリーが亡くなって一週間後のことである。

 彼は拳銃を咥えて涙を流していた。すまないフューリー。ぼくのせいで君の命を奪うことになってしまった。ぼくも君のところへゆくよ。フューリー、ぼくの愛しい人。

 と、まさに引き金を引こうとしたその時、彼の部屋の窓をたたく音がした。振り向くワイアット。すると窓の外に白い死衣をまとったフューリーが立っているではないか。

 フューリー、ど、どういうこと?彼は拳銃を投げだし窓にかけより、フューリーを招きいれた。
 どうなっているんだいフューリー。君は死んでしまったんだよね?
 違うのワイアット。あなたの愛の力が強くてわたしこの世に帰ってこれたの。
 ほんとうに?フューリー。また君に会えるなんて夢みたいだ。
 ああ、わたしもよワイアット。わたしを受け入れてくれてありがとう。また、わたしたち一緒にいられるのね。

 そうして二人は密かに付き合うことになった。ワイアットは家を出て部屋を借り、フューリーと二人で新しい生活をはじめた。フューリーは、以前のフューリーとは違った。何も食べないのである。しかし彼女は衰えることがなかった。ある日、ワイアットが手紙を開けようとしてナイフを使ったとき、誤って指を傷つけてしまった。たちまち膨れ上がる血を見たフューリーの目が見開かれ、息があらくなった。

 一滴だけ、一滴だけ舐めさせてちょうだいワイアット。瞳孔の開いた目を血走らせてフューリーが叫んだ。

 血を舐めたフューリーは前にも増して生き生きと精彩をはなった。

 二人は幸せに暮らした。時たまフューリーはワイアットの血を舐めた。そうすると、彼女の輝きが増した。

 ある日のこと、二人で森を散策していると、男が道端に倒れているところに出くわした。ワイアットは、血に塗れている男をまともに見ることが出来なかった。それほどに男は、ズタズタで虫の息だったのである。もちろん、フューリーの目は輝いた。でも、ワイアットはどうにかフューリーの衝動をおさえて、二人して男に駆け寄った。

 ダムドシングにやられた。やつは、おれたちの目には見えない類の生き物なんだ。 

 そう絶叫して男は、こと切れた。かれの所持品の中から古びた手帳が見つかった。そこにはその男の日記めいたものが記されていた。彼は生き別れた姉を探して旅していたのだが、その旅の途中で泊まった宿で不可解な現象に遭遇していた。そこでは、物が勝手に動き、青白い光の玉が宙を舞い、一緒に連れていた愛犬が、縮こまって死んでしまったらしい。何かの曰くつきだったようだが詳細は分からなかった。愛犬を亡くして落ち込んでいる男を見かねた宿の主人が絶対に勝つことができるカードの三つの切り札を教えてくれた。その数字は、かのサン・ジェルマン伯爵から教わった秘伝なのだそうで、事実それを実行した男は、一夜にして巨万の富を得たのだが最後の最後で運命が逆転し、莫大な借金を負うことになってしまった。彼は逐電し、その途次でトンネルの脇に立つ奇妙な素振りをする男をみた。その男は袖を自分の目の前にあてている。まるでこちらを見るのを怖がっているような様子なのだ。その奇妙な素振りをする男の姿を彼は何度も目にする。そこまで、読んだワイアットは、はたと思い当たった。この男が手帳に書いている奇妙な素振りをする男は、まるでさきほどのその男に駆け寄る前の自分の素振りと同じではないか。確かにあまりにも悲惨なその男を正視することができず、おれは袖で目を隠していたのではなかったか!

 そこまで思い至った彼はその場に昏倒した。

 次に目が覚めたときには、彼は全てを失くす以前に戻っていた。しかし、フューリーは最初から存在しておらず、彼もそのことを知らないままであった。のちに彼は保安官となったが、荒っぽい気性の激しさから職をおわれ、賭博場の元締、売春宿の経営者を経て、些細ないざこざからドク・ホリディらと共に地元のカウボーイらと撃ち合い、勝利する。世にいう『OK牧場の決闘』である。


 以上、本書収録の短篇の要所を抜きとって物語を書いてみた。なんの意味もない。どうもすいません。