読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

フレイザー・リー「断頭島」

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 いかにもキワモノっぽい匂いがプンプンする一冊。「断頭島」(ギロチン・アイランド)だって、どうよこのネーミング・センス。これね、原題はランプライターといって点灯員という意味なのだそうだ。あまり馴染みのない単語だが、管理人みたいな意味合いらしい。



 主人公は人生がまったくツイてないマーラという女性。仕事にもあぶれてもうアパートメントの家賃が払えない状態にまで追い込まれている。そんな彼女のもとに一通のメールが届く。億万長者が所有する地中海の島で管理人として贅沢に暮らしてほしいというのだ。給料も破格、こんなおいしい仕事ってある?疑いは残るが、後のない彼女はその仕事に応募してしまう。しかし、その島はけっして出ること叶わない恐怖の孤島なのであった。



 と、もっともらしく書いたけど、これ予想に反してホラーの王道から大きく外れていくんだよね。まるで「13日の金曜日」のジェイソンみたいな殺人鬼っぽい奴がノッケから出てくるけど、これがどうもただの殺人鬼じゃないみたい。外科医みたいな雰囲気があって、死体を損壊するんじゃなくて解剖している雰囲気。でも、その描写もグロは控えめでそういうのが苦手な人でも大丈夫。そうして、島での生活がはじまるのだが、これが本書の大半を占めていて驚く。ところどころ不穏な要素はあって、ラストに向けての伏線は張られているんだけど、これがなんとも不思議な結末をまねく。はっきりいって、ホラーとして認識しながら読んでいる読者としては、ラストでカタストロフィが訪れるのを待っているワケ。ドバーッ!でもいいし、グチャッでもいいし、グエェ!でもいいし、とにかくそういう派手なやつを待っているのだ。しかし、本作ではその部分が昇華しちゃってるから心底おどろく。なに、これ。一番おもしろいとこでこんなことしちゃダメだよ。それに、内容的にもすべて網羅されて決着しているわけでもないし。



 というわけで当初の期待からすれば、まったく逆方向の結末をむかえてしまう本書は、不満爆発のトンデモ本なのかといえば、そんなことでもないのだ。結局、最後まで読まされたし、落ちついて考えてみれば、敢えてこの結末を選んだ作者に逆に勇気があるなと称賛を送りたい気にもなってくるのである。
 いや、この作者の次作が出てもたぶん読まないけどね。