読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

ジェイムズ・ボーセニュー「キリストのクローン/新生 (上下)」

イメージ 1

 キリストのクローンなんて題材、いままで掃いて捨てるほど描かれてきた。時にはオカルティックに、時にはメディカルスリラー風に、またある時にはポリティカル・サスペンス風に。
 では、本書はいったいどんなテイストの物語なのか?いやいや早急な判断はまだ控えたほうがよさそうだ。なぜなら本書は「キリストクローン・トリロジー」の第一部なのである。これからまだまだ驚愕の展開が待っているということなので、いまは本書を読了した素直な感想のみを綴っていこうと思う。

 

 はじまりはあまりにもオーソドックスなのだ。キリストの遺骸を包んだといわれるトリノの聖骸布を公式に調査する科学者のチームの様子が描かれる。そこで密かに採取された物体は人間の真皮細胞で、驚くことに生きていたというのだ。一人の教授がこれを培養し、クローン化する。それは聡明な青年に成長しクリストファーと名づけられるのだが時同じくして全世界で驚くべき事態が進行していた・・・・・。

 

 未曾有という言葉がこれほどあてはまる話もないだろう。あまりの展開に思わず開いた口がふさがらなくなってしまった。特に、上巻半ばのある事件にはほんと驚いた。こんなことが起こるなんていったいこの後どうなってしまうんだと誰もが思うはずだ。だが、それはこれから起こることにくらべたら、ほんの予兆に過ぎなかったのである。その後の展開はまさしく一大スペクタクル。これがただの派手な展開なだけの話なら、敢えてぼくも口をすっぱくしてこれほど強調したりはしない。本書のすごいところはそれらの展開にすべてリアルな背景が添えられており、国家安全保障局の情報分析官として勤務した著者の確かな知識に裏付けされた迫真のシミュレーションの上に構築されているというところなのだ。時にそれは物語を追う上で弊害にも似た読みにくさを感じさせるところもあるのだが、読了したいまはそれもすべて本書の旨味として感じられるから不思議だ。

 

 科学的な事実、聖書の記述、ユダヤ教イスラム教などの宗教観の相違、さまざまな問題を巧みな解釈や新説でうまく説明をつけながらどんどん話をすすめていく手法には舌を巻いたし、幾人もの登場人物をあざやかに描き分ける筆勢も堂に入ったものだと感じた。
 いやあ、いったいこの先にどんな展開が待っているのか期待は高まるばかりなのだ。とにかく本書を読了したいま、はやく続編が刊行されないかと鶴首して待つばかりなのが、すごくもどかしい。

 

 東京創元社さん、はやく出してくださいね。




※これは本書の内容とはまったく関係ないのだが、本書を読んでいてユダヤ教のペサハ(過越祭)の描写が出てきたのだが、これがいま並行して読んでいるジョー・ウォルトンファージング第三部「バッキンガムの光芒」にも同様に出てきて、その同時性に少し驚いた。まったく縁のないこの奇妙で象徴的な行事を思わずして二回も追体験したことによって、ぼくの中では深く浸透していった感がある。これも読書の醍醐味なのだよね。