読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

スティーヴン・キング「レギュレイターズ」「デスペレーション」

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 この二冊の本が刊行されたのは1998年。もう15年も前だね。一昔だ。このころキングはリチャード・バックマン名義で何冊かの本を書いており、この二冊も「レギュレイターズ」がバックマン、「デスペレーション」がキング名義で刊行された。この二冊が面白いのは、同じ要素を共有してそれぞれの物語を構築している点だ。未読の方がおられるかどうかわからないがそれぞれの本について簡単に書いてみよう。

 

 『レギュレイターズ』

 

 アクションを強調するほどのクリフハンガー的サスペンスは感じなかったが、バックマン名義で発表されているにもかかわらず、本書からはとてもキングらしさを感じとった。
 バックマン名義の作品で、このようなことはいままで一度もなかったのだが。
 舞台はオハイオ。絵に描いたような土曜の午後的なアメリカ郊外からはじまるのだが、これがまた奇妙に怖いのだ。いきなり住民はワゴン車に乗った変な奴らに襲撃される。何度かの襲撃が行われるうちに、その襲撃者がおよそ人間らしくないモノだということがわかってくる。どうみても彼らはテレビアニメなどのキャラクターなのだ。そして、その原因が「デスペレーション」でも登場するネヴァダの砂漠の坑道に巣食うタックなのだということがわかってくる。

 

 キングにしてはめずらしく、このタックがどういう類のものなのかが解明されていないところがミソ。
この制約から解放されたルーズな条件が「デスペレーション」と「レギュレイターズ」の二作品の分岐を可能にしているのだ。さらに、キングの描きたかったのはタックという悪の象徴ではなく「デスペレーション」では神の存在と意味、「レギュレイターズ」では極限状況での人間の尊厳と弱者の真の力なのだ(このへんはスタージョンにも通じるものがあるね)。

 

 ま、どんな作品でも深読みすればどんな解釈でもできるのだが、それは作者の本意ではないだろう。ここはとりあえず、おもしろかった、それだけでいいのだ。

 

 そうそう、本書では新聞の切り抜き、映画の台本、アニメの脚本、日記、手書きの手紙などが各章の最後に挿入されており、おもしろい効果をあげていた。



 『デスペレーション』

 

 舞台はオハイオから変わって、ネヴァダの砂漠の町。一人の警官が突然狂いだし、住民を拉致してゆく。その原因があのタックなのだ。 

 

 デビュー当時のキングに戻ったかのような錯覚をおぼえた。不気味さでは、彼の作品の中でも上位五位以内には入るだろう。結局何がどうなのかは、はっきりしないのだが、キングが描きたかったのは神の存在とそれの肯定および否定、そして信仰のあり方なのである。
 キリスト教的なとらえかたとしては、神は時として残酷だが、やはり愛そのものなのである。
 また、本書では人間そのものの強さも強調されている。メアリやディヴィットの成長のめざましさは特筆すべきものがある。まさに極限での人間の強さだ。ほんと前向きでいいね。ぼくも彼らのような強い人間になりたいと、読みながら思ったものだ。だって、すぐ死んじゃう登場人物にはなりたくないものね。
 どちらの作品もそれぞれ違うテイストながら、底ではつながっているというあまり体験したことのない読書を楽しめる。キングのとどまることを知らない創作意欲が噴出したかのようなツインズだ。
 やっぱりキングはいいね。