読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

海外ホラー

ジョージ・R・R・マーティン「洋梨形の男」

何回も書いてるが、マーティンの短篇集「サンドキングス」はイマイチだったのだ。マーティンが得意とする奇想スレスレのとんでもない発想が少し的外れであまりピンとこなかった。これはひとえに、ぼくの読解力のなさがまねいた結果なのかも知れず、いま読め…

スティーヴン・キング「夕暮れをすぎて」

いま文藝春秋のHPで、やっと「悪霊の島」の表紙が確認できた。うれしいことに、また藤田新策の絵だった。前回の「リーシーの物語」は松尾たいこだったので、がっかりしてたのだ。いやいや、決して松尾さんのイラストが嫌いなわけではなくて、彼女のポップ…

ジョー・ヒル「20世紀の幽霊たち」

話題の書をようやく読み終えた。なんせ車中本で読んだものだから一ヶ月以上かかってしまった。しかしこの分厚い本をこの期間で読み切ったというところに本書の凄みがあるといえるだろう。だってあなた670ページですぜ。平日の仕事の合間の車で移動する時…

ジャック・ケッチャム「閉店時間  ケッチャム中篇集」

本書はおもしろかった。中篇集ということで四篇収録されているのだが、それぞれバラエティに富んで飽きさせない。だがみなさん、くれぐれも注意して頂きたい。本書には猛毒が含まれております。このわたくしめが、本書の中の一篇を読んで激情のあまり嗚咽を…

ジョン・ブラックバーン「小人たちがこわいので」

モダンホラーの原点といわれるブラックバーンの代表作である。まったくの白紙状態で読み始めたのだが当初はこの秀逸でゾクゾクするタイトルと、モダンホラーの原点という謳い文句に、真っ向勝負の恐怖譚なんだろうと勝手に予想していた。 だが、蓋をあけてみ…

マーク・Z・ダニエレブスキー「紙葉の家」

以前にも一度紹介したのだが、いま一度この奇跡の書といえる本をここに紹介したいと思う。 まさに、この本の出版は一つの事件だった。 本書はいままでにないタイプの作品だ。小説の概念が覆されるといえば大袈裟だろうか?やられてみれば何でもないことなの…

デイヴィッド・マレル「真夜中に捨てられる靴」

マレルの短編にハズレなしと勝手に思い込んでいるぼくにとって、うってつけの本が刊行された。 本書のタイトルを見たときに「?」と思った。「真夜中に捨てられる靴」とは、過去にこのブログでも再三言及してきたあの「リオ・グランデ・ゴシック」と非常に似…

スティーヴン・キング「図書館警察」

キングの短編が、なんともお粗末なシロモノだということは何度も書いてきた。中には 「道路ウィルスは北にむかう」なんてゾクゾクするような作品もあるのだが、総じて彼の短編はB級作品のオンパレードである。やはりキングの真骨頂はその執拗な書き込みであ…

スティーヴン・キング「シャイニング」

ここらへんで、この本についても一言残しておこうかというわけで、本日はキングの初期代表作であり、ぼくがキングフリークになった原因でもある「シャイニング」について語ってみたいと思う。 これを読んだのは、もう15年以上前になるだろう。 当時、キン…

D・R・クーンツ「ウォッチャーズ」

前にも書いたが、ぼくはクーンツのよい読者ではない。さすがにベストセラー作家の看板を背負ってるだけあって話自体はおもしろいと思うのだが、良く言えば『クーンツ節』悪く言えば『類型を脱してない』その典型的なパターンに飽き飽きしたのだ。 彼は善良で…

クライヴ・バーカー「ミッドナイト・ミートトレイン」

クライヴ・バーカーはなかなかユニークな作家で、小説を書く前に色んな場面を絵に描いてみるのだそうだ。そうやってイマジネーションを高めていくらしい。なるほど、それは物語を構築する上でかなり有利なことだと思う。大方の作家はその作業を頭の中で済ま…

ロバート・エイクマン「奥の部屋」

99年度版「このホラーが怖い!」で海外ホラー小説部門の第一位を獲得したのが本書だった。 といっても、このランキング正統なホラー(恐怖譚)としての成果を如実にあらわしたものではなく、それが証拠にこの時の二位はキングの「グリーン・マイル」だった…

スティーヴン・キング「ザ・スタンド」

アメリカ本国で本書が刊行されたのが1978年。そのときは出版社の意向で数百ページが削除された状態で刊行された。その後1990年に無削除の完全版が刊行されたが、日本で翻訳出版されたのは2000年になってからである。 本国アメリカではこの作品を…

ミューリエル・スパーク「ポートベロー通り」

スパークは英国を代表する女流作家である。しかし、いま現在スパークの作品を気軽に読むことはできない。以前は多く出てた翻訳本がいまは軒並み絶版となっている。 本書も然り。この本はスパークの幻想短編集なのだが、あの社会思想社の教養文庫から出ていた…

D・R・クーンツ「ライトニング」

クーンツは紹介されだした当時続けて読んだ。 「狂った追走」、「ファントム」、「ウィスパーズ」、「ストレンジャーズ」、「戦慄のシャドウファイア」など、どれもみんなおもしろいのだが、なんだかパターンが固定化されていて同じ素材の焼き直しにみえてき…

スティーヴン・キング「クリスティーン」

ええっと、あの、赤ちゃん生まれた次の日にホラーの紹介もなんだと思うんですが、気にせずいってみましょうか^^。 これ、キングの作品の中ではあんまり人気ないんじゃないかな? 本書はキング版アメリカングラフティである。高校生を主人公とした青春群像…

エリザベス・コストヴァ「ヒストリアン」

ヒストリアンとは「歴史家」のことを指す。 最初ぼくは「ダ・ヴィンチ・コード」のような歴史の謎+聖書ミステリー+オカルトみたいなものを期待していた。読みはじめた感触では、大いに期待をそそる雰囲気だった。 しかし、50ページくらいから壮大な歴史…

ロバート・R・マキャモン「ブルー・ワールド」

長、短どちらも器用に書ける作家は数少ない。キングにしたって、長編はあれだけ素晴らしいのに短編になると、途端にB級っぽい素地が強調されて読めたものではない。 しかし、マキャモンは違った。彼は短編も器用にこなす作家だった。 マキャモンが登場した…

ダン・シモンズ「殺戮のチェスゲーム」

ダン・シモンズは、日本では熱狂的に迎えられたという感じがしない。「ハイぺリオン」が刊行されていた当時、確かにホラー作品を中心に軒並み作品が紹介されたのだが、それほど話題になっていなかったような気がするのである。「ハイぺリオン」は確かにおも…

デイヴィッド・マレル「廃墟ホテル」

都市探検者。 見捨てられた建築物や、遥か昔に建造された地下鉄のあとに潜り込み、置き去られた過去の遺物を探索するクリーパ-(忍び入る者)たち。 本書では、そんな特異で危険な冒険を犯すことに喜びを見出す人たちが体験する一晩の恐怖を描いている。 久…

ロバート・R・マキャモン「魔女は夜ささやく」

17世紀末のアメリカ南部。とある村で捕まえられた魔女といわれる女。 魔女裁判を執り行うべく、この地にやってきた判事と若き書記のマシュー。しかし、マシューにはこの獄中にいる女が魔女だとは、どうしても信じられなかった。やがて、彼女を信じ愛しはじ…

ダン・シモンズ「カーリーの歌」

ジャンルを越えてそれなりの成果をおさめている器用な作家シモンズの処女長編である。 インドの魔窟カルカッタ。 腐敗と瘴気に満ちた魔都カルカッタ。 存在することすら呪わしい場所カルカッタ。 本書で描かれるカルカッタは、誇張されてる部分があるとはい…

ホイットリー・ストリーバー「ウルフェン」

当時、モダンホラーセレクションの1冊として刊行された本書は、狼男というモチーフを扱っていなが ら、ただの怪物が出てくる薄っぺらいホラーではなく、荒唐無稽な話にリアリティをもたせた佳作に仕上 がっていました。 本書に登場する狼男は、満月の夜に変…

ロバート・R・マキャモン「ミステリー・ウォーク」

当時、ポストキングとしてクーンツが大々的に紹介された年の暮れ(1990年)に、鳴り物入りで登場 したのがマキャモンでした。本書「ミステリー・ウォーク」は、そのマキャモンの本邦初訳作品。 本書を刊行したのが福武書店だったために長らく絶版だった…

ジョージ・R・R・マーティン「フィーヴァードリーム」

ジョージ・R・R・マーティンといえば、この人の作品に初めて接したのは早川文庫から出てたアンソロ ジー「スニーカー」に収録されていた「皮剥ぎ人」でした。この作品ノンストップホラーの傑作で、話の スピーディーな運びと惜しげもなく晒される血と肉、…

スーザン・ヒル「黒衣の女」

クリスマス・イヴの夜、家族で暖炉を囲みお互い怪談話を披露しあう場面から物語は幕を開けます。で も、主人公である『私』は、話を披露する事なくその場をあとにします。彼には、再婚した妻にも話して いない恐ろしい過去があったのです。 この本を読んだの…

スティーヴン・キング「I T」

いまさらなんなんだ、というような評価の定まった作品をわざわざ取り上げるのも気がひけるのですが、 でも自分のブログだからこそ一言いいたいという気もありまして、あえて、こういった定番作品を取り上 げてみました。 世界的怪物作家キングの第一期集大成…

デイヴィッド マレル「苦悩のオレンジ、狂気のブルー」

マレルといえば、映画「ランボー」の原作である「一人だけの軍隊」が有名ですね。 その他にも長編なら「石の結社」や「夜と霧の盟約」、「ブラック・プリンス」などといった冒険活劇的 な作品が多く、どうもこの作家は自分には合わないなと思っていたのです…

スティーヴン・キング「不眠症」

本書の設定で、まずおもしろいのが主人公が老人だということ。彼らのスローペースだが、ウィットを忘れないささやかな日常が描かれていきます。老人が日々思う事柄、思うように動かない身体、各々のレベルで維持される矜持。物語を追うにつれて、いつも通り…

シオドア・スタージョン「きみの血を」

あまりにも特殊な吸血鬼物ですね、これは。 まず構成から変わっていて、ラストの真相が明かされるところまで吸血鬼も登場しなければ、それらしい 場面も出てこない。事件を探る軍医と陸軍大佐との往復書簡や、渦中の人物による手記などが綴られてい くのです…