読書の愉楽

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セス・グレアム=スミス「ヴァンパイアハンター・リンカーン」

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 前作「高慢と偏見とゾンビ」で、驚きのマッシュアップ小説という盲点をついたような作品で話題をさらった著者の完全オリジナル作品である。でも、完全オリジナルといってもタイトルからもわかるとおり本書で描かれているのは、あの十六代アメリカ大統領のリンカーンが実はヴァンパイアハンターだったというお話。だから、ストーリーのアウトラインは史実として残っているリンカーンの人生に沿って描かれている。そこにヴァンパイアを絡ませたのが本書というわけ。ゆえに基本の物語がすでに存在しているという点では、前回の「高慢と偏見とゾンビ」と同じ条件なのかもしれない。しかし史実をきちんと踏まえた上で、これだけうまくヴァンパイアを絡めて見事に纏め上げた手腕は賞賛に値する。まず、本書を開くと基本事項として以下の三点が挙げられている。



1 一六〇七年から一八六五年まで、吸血鬼は二百五十年にわたり、アメリカの暗闇で生きつづけた。
が、その存在を信じる者はほとんどいない。

 

2 エイブラハム・リンカーンは生前、傑出した吸血鬼ハンターだった。彼は生涯にわたる吸血鬼との闘
争を、ひそかに日記につづっていた。

 

3 秘密の日記が存在するという噂は、歴史家や伝記作家のあいだではおもしろく語られてきた。しかし
、たいていの場合は絵空事として一蹴される。



 本書はそのリンカーンの秘密の日記を作者スミス氏がある男から受け取って、一冊の本に纏め上げたという体裁で語られる。恥ずかしいことに、ぼくはリンカーンの伝記を読んだことがなく、彼の生い立ちや成し遂げた仕事については、あまり詳しく知らなかった。知っていたことといえば、あの有名な演説と奴隷解放宣言そして南北戦争終結させということだけだった。それが、本書を読んで一通りの流れでリンカーンの人生を追体験することができた。しかも、吸血鬼付きでだ。そのうえ、吸血鬼の存在が無理なく歴史に溶け込み、尚且つ必然ともいえる作用をおこしているのである。これは唸るしかないではないか。

 

 意外な人物とリンカーンの交流があったというサプライズなどもあり、長い作品ながら飽きることがなかった。この人、また次の本が刊行されたら読んじゃうんだろうな。