本書の原題は[REVIVAL]。よく映画でリバイバル上映なんてのがあるが、〈復活〉という意味だ。そこでぼくは思うのである。キングの久々の恐怖の物語なんて謳われていて、この原題(最初、邦題の「心霊電流」てのを見てなんじゃこりゃ!と思ったけど、読み終えてみるとこれはこれで内容を覆い隠す意味もあって、なかなかのセンスだなと思うのである)から汲みとれる意味からして、こりゃもしかして「ペット・セマタリー」に匹敵する忌まわしい物語なんじゃないの?ってね。
キングマニアなら、みんなそう思ったはずだ。そういう期待と不安を手玉にとるのも、キング御大の十八番。じっくりと、しかし無類におもしろい物語を普通に語って、最後の最後に異界を現出させるところなど、わかってはいてもさすがだなと思うのである。
邦訳では、久々のホラー作品なのである。といっても、本書の前に刊行されていたホッジズ三部作も真のミステリー物かといえば、そんなことはなかったんだけどね。
上巻部分ではこれといって何も起こらない。でも、まず言及しておきたいのは、本書が回想の物語だということだ。語り手である本書の主人公ジェイミーは、過去の出来事を思い出して綴っている。だから、読者としてはどんな恐ろしい出来事があったにせよ、主人公の命が奪われる事態にまでは及んでいないのだということを知った上で物語を遡上することになる。この設定は、やはりキングほどの手練れでないと最大の効果を発揮することができない。情報の共有は両刃の剣だ。作者と読者の駆け引きはページを開いた瞬間からはじまっているのである。
さて、ではここで少しだけ紹介しておこうか。主人公は本書の語り手でもあるジェイミー・モートン。彼は過去を回想している。幼少期からのあれこれを思い起こしているのである。そこに登場する一人の人物、ジェイミーの町の教会に新たに赴任してきたチャールズ・ジェイコブズ。本書は、この二人の長年にわたる邂逅とその顛末を描いている。
あいかわらずキングの筆は冴えている。それは若かりし青春の日々を描かせたら絶品なのである。このままこの物語がずっと続いてしまって、恐怖云々は別に起こらなくてもいいな、なんて不埒なことも考えてしまうほどなのである。しかし、キングはそこに不穏な要素を少しづつ紛れ込ませてゆく。親しきものの死。電気による実験と治療。崩れる精神。後遺症・・・。
何かが起こりそうで起こらない。キングはその真相をためにためて最後にそれを解放する。今回、恐怖の面に関しては少し弱いのだが、それはそれ、物語として小説としてこれだけ楽しませてくれれば文句はない。キングの代表作としてカウントされる作品ではないかもしれないが、読んでソンはなし。スルスルと読めて誰もが楽しめる作品だといえるだろう。
やはりキングは、歳とって丸くなったんだなぁと思うのである。この作品が本国で刊行されたのはもう五年も前なんだけどね。