読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

イーディス・ウォートン「幽霊」

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 正統派といったらいいのだろうか。とても精巧で思慮深く構成されたゴースト・ストーリーが楽しめる。

 決してとっつきやすくはないのだが、気負わず淡々と読んでいくと禍々しい世界が拓けていくのに驚いてしまう。なんだ、この感覚は。ゾクゾクする。恐怖に直面したときのゾクゾクではないが、確かに鳥肌がたちそうなゾクゾクではある。本書に収録されている作品は以下の七編。

 「カーフォル」

 「祈りの公爵夫人」

 「ジョーンズ氏」

 「小間使いを呼ぶベル」

 「柘榴の種」

 「ホルバインにならって」

 「万霊節」

 とにかく巻頭の「カーフォル」で完全にノックアウトされてしまった。フランスのブルターニュ地方にある館が売りに出されるというので下見にいくわたし。だが、訪ねた館には誰もおらず数頭の不可解な犬たちがいるばかり。奇妙な犬たちを気味悪く感じながら近くの友人宅に戻り、昼間の出来事を語ると、そこにはなんとも凄惨な過去があったことが判明する。この話で素晴らしいのは、一旦過ぎ去った出来事が因縁が判明することによって反転するように不気味な部分が強調されるところなのである。気になった方は是非読んでいただきたい。この一編を読めば、必ず後の作品もすべて読んでみたくなること請け合いなのである。続く「祈りの公爵夫人」も凄まじい話で、怪談としての恐怖よりも人間本来の怖さが強調されていて忘れがたい。他の作品もそれぞれ素晴らしく、「柘榴の種」などは行方不明になった夫を探す妻の追い込まれた姿が鬼気迫る逸品であり、「万霊節」の突如として使用人が一人もいなくなってしまった屋敷を徘徊する女主人の描写も心底恐ろしい。

 かように、本書は正統派ゴースト・ストーリーの魅力に溢れる作品集なのだ。う~ん、19世紀のホラーは素晴らしい。この人の幽霊譚はもっと読んでみたい。