こんなアンソロジーが出てたなんて、知らなかったー。ま、さほどインパクトの残る作品はないけれども、既読の作品もすっかり忘れていたので初読のような感覚で読んだ。ていうか、それくらいの作品だから印象に残らなかったんだろうけど。収録作は以下のとおり。
「三つの幽霊」 遠藤周作
「屍の宿」 福澤徹三
「残り火」 坂東眞砂子
「封印された旧館」 小池壮彦
「湯煙事変」 山白朝子
「深夜の食欲」 恩田陸
「カンヅメ奇談」 綾辻行人
「螺旋階段」 北野勇作
「ホテル暮らし」 半村良
「狐火の湯」 都築道夫
「トマトと満月」 小川洋子
秀逸なのは都築道夫「狐火の湯」だね。怪談の雰囲気◎だし、こんなどうってことない、むしろ恐怖体験の中では人魂と並んでなんてことない題材をここまで鬼気迫る描写で読ませるんだから素晴らしい。ちょっとエロティックなところもあったりして、でもそれが嫌な感じでもない。叙情を感じる舞台と巧みな文章にのせられて、ギョッとします。似た感触でいえば、福澤徹三「屍の宿」もそんな雰囲気なのだが、こちらはもっと直接的。怪異が怪異を起こしているから、幻想味が増して少しボヤける。でも、ラストのセリフは心臓に杭を打たれる衝撃。坂東眞砂子「残り火」は、年の離れた夫に仕えているような夫婦生活に疲れがみえる房江が風呂焚きしながら壁越しに夫と話す会話の中で、何気ない言葉のやりとりから真相を知る話。心配しないで下さい、宿は出てきますよ。
その他は先にも書いたとおりさほど印象に残らない。遠藤周作と小池壮彦の作品は事実なんだろうから、作り物から距離をおいた奇妙さと信憑性はあるけどね。で、この朝宮運河氏が編んだアンソロジーがもう一冊あるので、それも読んでみようと思う。そちらのテーマは家ね。家ホラーは、結構書かれているから、本書より印象に残る作品が多いのではないかと期待する。朝宮さん、海外物でも編んでくれないかな?絶対読むんだけどな。やってくれないかなー。