読書の愉楽

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澤村伊智「ずうのめ人形」

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 なんといっても前回の「ぼぎわん」や今回の「ずうのめ」といった、そのネーミングのセンスにうっとりしてしまう。この感覚はちょっと真似できないよね。さらに本作で強烈に特徴づけられているのが、フィクションとノンフィクションの境界の曖昧さだ。あきらかにフィクションだとわかっていても、そこに現実世界への言及があれば、メタフィクションとして機能して思わぬ奥行をみせてくれる。本作での試みは、先行作品への言及だ。鈴木光司「リング」小野不由美残穢」の名が頻出し、それが境界線をぼやけさせここで描かれる恐怖が一気に読者に寄り添う。いや、ぼくはそんなに怖くなかったけどね。



 この物語の構造そのものが「リング」と酷似しているのも、相乗効果を高める。ある原稿に書かれているずうのめ人形の呪いの話。その原稿に携わった人すべてが奇妙な死を迎えている事実。原稿を読んでしまった本書の主人公は、それが自分の身に起こるのを防ごうと死のタイムリミットに向けて呪いの謎を解こうとする。



 フィクションであるはずの「ずうのめ人形」の話は、もちろん読者も読むことになる。黒い振袖を着て顔には赤い糸がぐるぐる巻きにされた人形が少しづつ近づいてくる恐怖。まさかね。ぼくも読んでるけど、そんなことないよね?思わず身の回りを見まわしてしまう。いや、ぼくはそんなことしなかったけどね。本書を読んで、そういう気になった人は数多いんじゃないかと思うのである。

 

 
 前作で活躍した比嘉真琴と野崎さんが本作でも登場する。しかし、今回はかなり地味な活躍だ。ま、それくらい『ずうのめ人形』の呪いが強烈だったってことなんだろうけどね。いや、何度もいうけど、ぼくはそんなに怖くなかったよ。あんな小さい人形のどこが怖いんだっての。赤い糸でぐるぐる巻きにされている顔ってのが不気味だけど。
 もう一点言及しておくと、この作者ミステリ的なギミックを仕掛けるのが好きで、それは本作でも仕掛けられている。前作と重複するようなところもあったが、もう一個のギミックはまったく気がつかなかった。読み返してみるとなるほどうまく誘導しているなと驚いた。さらにたたみかけるようにして明かされる事実は、ちょっとやり過ぎの感があったが、まあ許せる範囲かな。



 というわけで、結局『リング』みたいに明確な答えは出なかったが本作もなかなかの手応えだった。もう三作目が刊行されているが、それも期待していいみたい。まあ、みんながいうほど怖くないけど、話的にはグイグイ引っぱっていく面白さだから、この作者は今後もずっと読み続けていこうと思う。あれ?いま目の隅に黒い小さな影が映ったような気が・・・・。