読書の愉楽

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平山蘆江「蘆江怪談集」

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 平山蘆江という人のことは、まったく知らなかった。あの泉鏡花と怪談会を開いていたそうで、大正から昭和にかけて活躍した今でいうところのジャーナリストだったらしい。怪談会を催すくらいだから、この人、怪談には目がなくて、本書のような怪談集を出していたが、これが長らく手に入りにくく幻の本となっていたのをウェッジ文庫で復刊したのだそうな。
 で、その内容なのだが、これが読んでみればわかるとおりまさしく至芸ともいうべき絶品の語り口で巻頭の「お岩伊右衛門」から、すっかり掌中にとりこまれてしまった。お岩といえば、いうまでもなくあの有名な『四谷怪談』なのだが、ここで語られるお岩の話は、われらが存知のあの毒を盛られて顔が変わってしまうお岩ではない。もともとこの話には実在の事件があったそうで、蘆江氏はそれを元に書いているのかな?とにかく、初めて読むお岩物語にいったいどういう結末がむかえられるのだろう?とちょっとハラハラしながら読んだ。
 次の「空家さがし」はこれまた奇妙な話で、詳しく書くと興ざめになるので詳細は避けるが、怪談の語りで展開されるなかなかアクロバティックな話で、まさかそんな結末になるとは思ってもみなかった。侮りがたし蘆江怪談である。

 

 そういった話が、本書には十二編収録されている。それプラス「怪異雑記」というエッセイがついて〆となる。語られる時代が時代ゆえ、現代のわれわれにはどうやっても乗りこえられない大きな壁があって、それがこの本全体の雰囲気を醸しだしている。語り口と真似のできない雰囲気。そういったものが相乗してまさしく絶品の怪談を作り上げているのだ。

 

 ぼく的には「悪業地蔵」のかなりサスペンスフルな展開が本書の中で一番印象に残った。その因縁を解明するくだりでは、少し納得いかない部分もあったが、これはおもしろかった。
 「火焔つつじ」、「鈴鹿峠の雨」、「大島怪談」の怪異描写のビジュアルにも忘れがたいものがあって特に「大島怪談」は、その場面を想像すると背筋が寒くなる。とりたてて怖い描写でもないのに、妙な凄みを感じてしまうんだなあ。

 

 というわけで、この「蘆江怪談集」、なかなかのオススメなのであります。古臭い怪談なんでしょ?と高をくくっていると、きっと驚きますよ。