読書の愉楽

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飴村行「爛れた闇の帝国」

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 本書も角川書店の『読者モニター企画』でいただいた簡易製本。前回の読者モニターで一路晃司「お初の繭」のことを散々けなしてしまったのにもかかわらず、また本書で当選してしまったのである。まさか再び選ばれるとは思ってもみなかったので、正直驚いた。

 

 それはさておき本書なのだが、これは粘膜シリーズが快調な著者の初めての単行本なのである。だからというわけではないが、これがなかなか読み応えのある快作なのだ。

 

 といっても、扱われている題材はいつものごとくなんともふしだらなアンモラルな世界と軍隊だ。

 

 本書ではそれが二つのパートで同時進行してゆく。まず『闇に囚われし者』として描かれるのが独房に全裸で拘束されている兵士のパート。彼は記憶をなくしており、自分の名前さえも思い出せない。当然自分がどうして拘束されているのかもわからない。そんな彼の前に憲兵があらわれ、彼を拷問にかけるのだが、そうされることによって彼は少しづつ以前の記憶を取り戻してゆく。

 

 もうひとつのパートは『闇に怯えし者』として描かれる一人の高校生の物語。高校二年の正矢が主人公のこのパートでは彼の一年先輩の崎山という不良があろうことか二十三も歳の離れた正矢の母親と付き合いだし、セックスしまくりの毎日を過ごしているというありえない日常が描かれる。正矢には小学生の頃から奇跡的にずっと同じクラスになっているという晃一と絵美子という親友がおり、三人は「ワンダー3」というグループを結成して親交をあたためていたが、正矢のおかれた状況がこの信頼関係に亀裂を加えることになる。

 

 さて、こうして二つの物語が交互に語られてゆくわけなのだが、この時と場所を隔てられた二つの物語がやがて奇跡のリンクを果たすのである。

 

 ゆえに本書は著者の得意とするホラー・ミステリの特色をさらに強調した作品となっている。これは、かなりの力技であり、人によってはあまりの真相に開いた口がふさがらなくなってしまうかもしれないが、論理的には破綻してないのでご安心を。いつものごとくちょっと普通じゃない生き物も登場したりして飴村作品に馴染んでいる読者の方なら楽しめること間違いなしである。

 

 オリジナリティという点では、これほど独自色を出している人もめずらしいと思ってしまう。ついつい新しい試みに挑戦してしまうのが作家としての本能だと思うのだが、この人はあくまでも自分の得意とする分野でいつも通りの仕様で物語を構築してゆく。まことに天晴れであり、堂々たるものである。前回の「粘膜蜥蜴」では「キングコング」の焼き直しみたいな場面に愛想をつかした形になってしまったが本書ではそういう不満もまったくなかった。さくさく読めるホラー・ミステリ、どうかみなさん楽しんでください。