読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

一路晃司「お初の繭」

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 あの「あゝ野麦峠」の世界なのだ。戦前の貧窮にまみれた農村の娘が製糸工場に出稼ぎにいき、そこで過酷な労働に直面するあのなんとも悲惨な話がベースになっている。

 語り手は、タイトルにもなっているお初。口減らしも兼ねて、身売り同然の扱いを受けながら、健気にも製糸工場で一生懸命働き錦を飾って家に帰ることを夢見ている純粋な女の子。そして彼女と一緒に出稼ぎにいくことになった同じ境遇の少女たち。彼女たちは遠く離れた果口之国蚕喜村(はてくちのくにさんきむら)にある瓜生製糸会社(ふりいくせいしかいしゃ)に奉公に出ることになる。そこで待っている数々の試練。そして最後に明かされるもっとも恐ろしい真実とは・・・・。

 という風に内容紹介を思わせぶりに書いてみれば、いかにも興味を惹そうな感じになってしまうのだが、これがあまりよろしくなかった。

 本書は角川の読者モニター企画でいただいた簡易製本で読んだ。だから本当は心から褒めて推薦する感想を書きたかったのだが、これはだめだ。まったく新鮮味のない展開と真相で、まさかそんな安易な結末にはならないだろうなと思ったとおりになってしまったので逆に驚いてしまったくらいなのだ。

 実をいうと、本書と同じ感想を持った過去の受賞作はある。瀬名秀明の「パラサイト・イヴ」だ。こちらもなんとも陳腐な印象を受けたのだが、みなさんはどうだっただろう?安易というか、あまりにもB級というか、こういう作品が大賞とるなんて、この賞もたいしたことないなとまで思っていたら、あの大傑作の「黒い家」が登場したのだ。その後一年おいて岩井志麻子の「ぼっけえ、きょうてえ」が大賞受賞したときには刊行と同時に読んだのだがこれは雰囲気は最高だったが少しあっさりしすぎていたような気がしてそれからはこの賞から関心が薄れていった。それでも毎年はチェックしてたんだけどね。

 それはともかく。本書は大変残念な結果となってしまった。もうチラホラと本書に関する感想もみられるが、好意的な感想が多いので、ぼくの受け取り方が悪かったのかもしれない。だが、これが正直な気持ちなのだ。