読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

貴志祐介「悪の教典(上下)」

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 どこまで話してもいいのかな?とりあえず、本書には稀代の殺人鬼が登場する。その名は蓮実聖司、高校の英語教師であり、その甘いルックスと高い知性でもって学校でも人気の先生なのだが、彼は生まれつき人間としての感情が欠如しているという重大な欠陥をもっている。

 

 だから彼は自分の進む道にあらわれる障害は、なんのためらいもなく排除する。それこそ紙くずをゴミ箱にすてるように簡単に、呆気なく。

 

 本書ではそんな人間の皮をかぶった怪物が、その犯罪人生において頂点を極める運命の一夜を迎えるまでを描いた全編フルスロットルのサイコホラーなのである。

 

 本書の構成と似た作品は過去にもあった。その特徴がもっとも効果的に反映されていたのがウラジーミル・ソローキンの「ロマンⅠ・Ⅱ」である。これは海外文学好きなら知っている方もおられるかもしれないが、物語の前半と後半のコントラストがあまりにも鮮やかに際立っている作品で、気の弱い方が読まれたら、トラウマになりそうな本なので、取り扱い要注意。

 

 もう一作国内でも本書と似たような構成のホラーがある。中島らもの「こどもの一生」だ。どちらかというと、これのほうが本書に近いんじゃないかな。

 

 とにかく本書は下巻に入ってから怒涛の展開をむかえる。はっきりいって、とても正視に耐えない場面の連続だ。九章以降の恐怖の一夜は、血と硝煙とむせ返るほどの死の臭いにあふれている。ぼくは本書を読んでいてあの犯罪史上に燦然と輝く「津山三十人殺し」を思い浮かべてしまった。どうかみなさん、これから本書を読まれる方は、心してかかっていただきたいと思うのである。巷ではハスミン人気が高まってきているみたいだが、ぼくの目から見れば彼は正真正銘の悪魔である。虫唾が走るほど非道な男なのだ。

 

 だが、やはり貴志作品は素晴らしい。こんなとんでもない話でも、あまりのおもしろさにページを繰る手が止まらないのである。近年稀に見るリーダビリティだといっていい。

 

 というわけで、本書が今年刊行された本の中で最高の話題作であることに疑念の余地はないのである。

 

 最後におまけなのだが、本書のサイン本をゲットしたので、一応載せておこうと思う。これも蓮実ツイッターをツイートしてたおかげ。京都駅の三省堂書店で手に入れました。ここには蓮実聖司自身のサイン本も紛れ込んでいるそうで、本当はそっちをねらっていたのだが、当りませんでした。サイン本はまだあるかもしれないので、お近くの方は是非どうぞ。
                
        
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