読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

小野不由美「緑の我が家 Home,Green Home」

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 小野不由実といえば、ホラーなのである。もちろんファンタジーの傑作として名高い『十二国記』もあるのだが、やはり小野さんといえばホラーなのだ。


 本書は小野さんが今ほどメジャーになる前に書かれたジュブナイル・ホラーだ。ぼくはこれを読んだとき、あの「わたしの人形は良い人形」の山岸涼子と同じテイストを感じた。いくらジュブナイルだといっても、これはかなりビビらせてくれる本だ。


 そこ此処ではさまれる描写がすごい効果をあげている。それは、黄色いチョークで壁と床一面に地獄絵図を描く子どもや、男か女かわからない機械的な電話の声などの怪異として描かれる。こういった描写が冴えている。パッと頭で理解できて途端に背筋が寒くなる。


 余談だが、ぼくが知りあいに聞いた怖い話にも秀逸な描写があった。丑の刻参りで有名な貴船神社が京都にあるのだが、そこに酔狂にも夕方から訪れたいという他県の人がいて、いきがかり上しかたなく連れていってあげたところ神社の中にクシを咥えた女の人が長い髪をふり乱してうつむいて立っていたというのだ。まあ、たったそれだけの話なのだが、これの鮮烈な印象はなかなかのインパクトではないか?そのビジュアルに度肝を抜かれてしまうのは、ぼくだけではないはずだ。


 そういったなんの説明がなくとも見ただけで鳥肌がたつような恐怖描写は、ぼくの偏見かもしれないが、どうも女性作家のほうが上手いように思うのである。本書もそういった描写が光っていて、軽く読める本なのに、かなりの効果をもたらしているのだ。


 ストーリーも、よくできていてしっかり読ませる。ぼくとしては『オサル』がせつなく、哀愁をさそってとても物悲しくなってしまった。


 何をいっているのかよくわからないと思われた方、どうか本書をお読みください。また最近「残穢」ではじめて小野不由実に接して感銘を受けた方、ここに彼女の恐怖の原点があるのですよ。どうか遡ってお読みください。