読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

国内ホラー

乾ルカ「メグル」

五編の短編が収録されているのだが、連作となっていてそれぞれが大学の奨学係の女性職員が斡旋するアルバイトを巡る話となっている。まず、この女性事務員が謎めいた存在なのだ。彫りの深い整った顔立ちなのにも関わらず、常に無表情で無機質な印象を与える…

北原尚彦「首吊少女亭」

この本は『ふしぎ文学館』の頃から少し興味を持っていたのだが、今回文庫になったのということで読んでみた。作者の北原氏は生粋のシャーロキアンだそうで、本書に収められている12の短編のうち表題作以外は、すべてホームズの活躍したヴィクトリア朝を舞…

明野照葉「澪つくし」

この人の本を読むのは初めてなのだが、雰囲気的には女性の怖い面を強調したサスペンスっぽい作品を書く人なのかなと思っていた。当たらずとも遠からずという感じだ。本書を読んだ限りでは、それほどの吸引力は感じなかったが、普通に興味を持続して読み終え…

飴村行「粘膜人間」

年末のランキングで「粘膜蜥蜴」が話題になってたので、さっそくデビュー作である本書を読んでみた。物語の導入部はこんな感じ。身長195センチ、体重105キロという巨漢で横暴な小学生の義弟を殺そうと画策する長兄・利一と次兄・祐二。だが、体力的に…

沼田まほかる「アミダサマ」

この人の本は今回初めて読んだのだが、非常に惜しいと感じた。細部を取り出すと、これほどゾクゾクさせてくれる本もないなと思えるほど怖いのだ。だが、いかんせん物語の本筋がなんとも弱かった。だから凄く惜しいのだ。この怖さとストーリーのおもしろさが…

京極夏彦「厭な小説」

これ分類が難しいなぁ。一応「国内ホラー」にしといたけど、ホラーかといえば、ちと弱い気もするんだよな。でも、ミステリって感じでもないしね。ま、これでいいか。というわけで、いままで長い間読まずにきた京極作品なのである。ずっとずっと以前に「狂骨…

百怪の会編「恐怖のネット怪談」

実話系ホラーに目覚めたので、読んでみた。本書はネットの怪談系サイト「妖怪百物語」「Ghost Tail」「きょうふの味噌汁」の三つのサイトから許可を得て編纂されたそうで、それぞれのサイトから選りすぐりの怪談が集められている。ということなのだが、正直…

木原浩勝 中山市朗「新耳袋 現代百物語第四話」、小池壮彦「幽霊物件案内2」

もねさんの紹介で読んでみることにした。こういう実話系怪談の本をまとめて読んだことがなかったのでなかなか新鮮な体験だった。 まず、「幽霊物件案内2」である。これはさほど怖くない。もねさんが取り上げられていた第九章の封印されたホテル旧館に纏わる…

弐藤水流「リビドヲ」

ちょっと写真うつりが悪いけど、帯の文句はわかると思う。この面子が絶賛してるとなると、ちょっと期待してしまうのは仕方がないことだろう。新人なのに、この鳴物入りのデビューはいったいどうしたことだ?それに、週間現代では貴志祐介も書評に取り上げて…

山白朝子短篇集「死者のための音楽」

話題の作品集である。本書の著者がかの作家の変名だというのは、おそらくそうなのだろうと思われる。だって、各作品の作風がまったくそのままなんだもの。というわけで各作品のタイトルをば。 ・「長い旅のはじまり」 ・「井戸を下りる」 ・「黄金工場」 ・…

乾ルカ「プロメテウスの涙」

乾ルカ氏の初長編である。これは多大な期待をよせて読んだのだが、読了した今、少々とまどっている。なんとも奇妙な話であり、事の真相を知りたいという欲求のみに突き動かされてラストまで一気に読んだのだが、ちょっと肩透かしだったのだ。まず登場するの…

津原泰水「綺譚集」

この人の本を読むのは初めてである。10年ほど前に「妖都」で一般向けデビューしたときに、綾辻行人や小野不由美や菊地秀行らからの絶賛がオビに書かれていて目を引いたのだが、触れることなくいままできた。途中「ペニス」なるなんとも大胆なタイトルの本…

恒川光太郎「夜市」

ぼくの好みでいえば、表題作より「風の古道」のほうが良かった。人間界とは隔絶された幻の道。いにしえより人でない者たちが行き来してきた魔物の道。そこに迷い込んでしまった男の子の数日間の冒険が描かれるこの中編は、ファンタジーと怪異譚の境界をうま…

乾ルカ「夏光」

おいおいおい!この作家凄いよ!べるさんの記事で→乾ルカ/「夏光」/文藝春秋刊知ったんだけど読んでびっくり、こりゃこのあいだ読んだ湊かなえ「告白」よりも数段上をいく短編集だ。最近知った新人の中では一番じゃなかろうか。 と、柄にもなく興奮しちゃっ…

平山夢明「ミサイルマン」

話題作となった前回の短編集の勢いを借りて、大いなる期待のもと出版された本書なのだが、いかんせん二番煎じの感がぬぐえない仕上がりとなっている。どうも路線が微妙になってきたというか、相変わらず血と粘液にまみれたナスティなお下劣さは健在なのだが…

鈴木光司「仄暗い水の底から」

水、特に海から得られるイメージは、明るく爽快で開放的なものである。 だが、それと同じくして背中合わせに、暗くてどんよりして密閉的なイメージも孕んでいる。明と暗。昼と夜の違いで、これほど印象が変わるのも海が生きている証拠である。 本書に収録さ…

清水義範「ターゲット」

清水義範がこんな本を書いてたなんて知らなかった。うっかり見落としてたなぁ。平成12年かぁ。ついこのあいだじゃん。T・ハリスの「ハンニバル」と一緒に刊行されてるから、店頭で見てたはずなんだけどなぁ。まったく記憶にないや。この藤田新策の表紙は…

小野不由美「屍 鬼」

小野不由美といえばホラーである。ぼくは全然読めてないのだが、ジュブナイルで出ていた『悪霊シリーズ』などは、その当時から怖いと定評があったし、本書の前に書かれた「東亰異聞」も結末はイマイチだったが、なかなか雰囲気のある読み応えのある作品だっ…

朱川湊人「都市伝説セピア」

この人は非常に安定した書き手だと思う。リーダビリティに優れているし、各編趣向を変えて飽きさせない工夫がある。例えば巻頭に配されてる「アイスマン」。 これは主人公が過去を回想する形で物語が綴られる。彼は高校時代に精神的にバランスを崩してしまい…

鈴木光司「リング」

これは、作品が一人歩きしてしまって小説本来の価値が薄れたような気がする。メディアにいいように 食い尽くされて、いまではお笑いのタネになってしまっている感がある。 しかし、本書を読んだ方ならわかってもらえると思うが、本書は秀逸なサスペンスホラ…

貴志祐介「クリムゾンの迷宮」

貴志祐介氏はこのところミステリーが続いてるようだが、ぼくはホラーを切望してやまない。 有名な「黒い家」でその才能に狂喜乱舞し、「天使の囀り」で一発屋でないことを確信させたこの作家 は、今回紹介する本書のような不気味でサスペンスに富んだ作品も…

平山夢明「独白するユニバーサル横メルカトル」

天才か?やっぱりこいつは天才なのか? 読みながら、何度もそう思った。彼の「メルキオールの惨劇」を読んだとき、その形容しがたい世界観 にメロメロになってしまったのだが、本書におさめられている八篇の短編はそれぞれが独自の世界を築 いていて、もうそ…

福澤徹三「廃屋の幽霊」

本書は、純粋な怪異譚ばかりを集めた短編集である。全部で7編収録されている。 どうもこの人の書く怪談は、あの世とこの世を幻想で味付けしてしまう傾向があるようだ。 怪異をストレートに描かず、そこに境界をボカした曖昧な領域を設けて読者を煙に巻く。…

福澤徹三「亡者の家」

ホラーと銘うってあるが、本書はホラーとしては少しインパクトに欠ける。 超自然的要素は、まったく出てこない。 ここで少し考えてみたいのだが、優れたホラーとはいったいどういうものをさすのだろう?この場合のホラーとは、怖さの点で優れたホラーという…

中村うさぎ「家族狂」

中村うさぎといえば、いまでは整形手術したり買物依存症を売りにして本を出したり、色物っぽい感じなのだが、本書を刊行した当時(1997年)はジュブナイル専門の作家という認識しかなかった。 そんな彼女が一般向けに出した初の本ということで最初は気に…

平山夢明「メルキオールの惨劇」

物語は破綻しているが、魅力ある展開だった。 人の不幸をコレクションする男の依頼を受けた「俺」は、自分の子供の首を切断した女の調査に赴く。 おお、なんという凄まじい設定!身の毛もよだつとはこのことではないか。これは心してかからねばなるまいてと…

福澤徹三「壊れるもの」

この人、最近本出てないですね。 新しい恐怖小説の書き手として注目していたのだがどうしたんだろう? 彼の書く体験をもとにした短編は、なかなか怖い。「再生ボタン」や「怪の標本」に出てくる数々のエピソードは、ゾワリと背筋が寒くなるものばかりだった…

竹本健治「腐蝕の惑星」

この作品は、いまでは角川ホラー文庫から「腐蝕」というタイトルで出ている。 はじめて本書が世に出てきたのは昭和61年、新潮文庫からだった。 当時はSFスリラーとして刊行されていたが、まぎれもなく本書はホラー作品である。SFの設定ながら、主人公…

中島らも「ガダラの豚」

この本、単行本で出た当時(1993年)に読んだのですが、上下二段組で約600ページという長大さにも関わらず、一日で読み終わってしまいました。ほんと、読み出したらやめられないおもしろさなんです。物語には、アフリカ呪術、超能力、インチキ新興宗…