読書の愉楽

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宮澤伊織「裏世界ピクニック  ふたりの怪異探検ファイル」

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 ネットロアという造語を本書で知った。ネットとフォークロアを合わせたのだそうな。世に不思議な話は尽きないのだが、ネットが普及してからこういった不思議な話、奇妙な話、怖い話が世に広まる速度には目覚ましいものがあったよね。もともとぼくは2ちゃんねる掲示板を見る習慣がないのだけれど、そんなぼくでも本書に出てくるモチーフは知ってるもんね。

 ここで描かれるのは、そういったネットロアで話題になった事象が実在する『裏世界』を知ることになった二人の女子の探検行である。「裏世界ピクニック」といういささか和やかなタイトルと表紙に描かれる可愛い女子キャラにダマされてしまうが、本書はなかなか特異な恐怖を描いて秀逸だ。

 ぼくなりに本書の怖さの質についてゆっくり考えてみたのだが、ネットロアの恐怖というのは解決していないものが多く、いってみれば究極の訳が分からない話なのだ。本書の中でも言及されるが、ぼくたちが普段怖いと感じるものは対象が現実に存在するものが主であって、それが非現実なものであったとしても霊とか宇宙人とか妖怪とか、馴染み深いものばかり。しかし『裏世界』ではその概念が通用しない。ここで起こる事象は我が身にどんな影響を及ぼすのか見当もつかないのだ。自分がどういう目に合うのかわからないというのは、本当に怖いよね。たとえば刃物を持った男に襲われれば、刺される切られる血がでる痛い死ぬ、なんて想像がつくのだが『裏世界』の事象はこういった予想、想像がつかないのだ。いったいこいつは自分に何をするんだ?どうなるんだ?それがわからない。

 いや、これは怖い。ぼくなんか本書のファイル3「ステーション・フェブラリー」での場面が忘れられないのである。ミイラみたいに梱包されたいくつもの人体を胴体から吊り下げている大きな四つ足。シルエットでしか確認できないその不鮮明さ。どう見ても、その四つ足には首がないのだ。そしてその側にいる全裸で鹿の枝角のようなものを側頭部から生やしている筋骨隆々の男。あまりにも異様な光景だ。しかもこちらはそれに追われているのだ。いったい追いつかれて捕まってしまったら、自分はどんな目に合うのか?

 うう、こわっ!何、このぞわぞわ感。そういった感じで本書にはネットロアの恐怖がテンコ盛りなのだ。登場人物である二人のことについてまったく書いてないが、ぼくは続けてニ巻、三巻と読んでいくつもりなので、追々書いていこうと思う。

 とにかく、おもろいから未読の方は読んでみ。