ホラーとミステリの融合を模索する三津田信三の新作である。単独の作品で体裁としては作者である三津田氏が編集者時代から蒐集していた怪談の中から、発表を見合わせていたといういわくつきの話があるという導入部で幕を開け、その怪談がそれとは別に紹介されて知り合ったライター経由で手に入ったある民俗学者の手記ノートの内容と合致するという偶然から二つの話を紹介するという構成をとっている。
こうして作者自身が蒐集した「覗き屋敷の怪」と民俗学者の手記「終い屋敷の凶」が語られるわけなのだが、個人的には「覗き屋敷の怪」のドキュメント風に展開される怪異の描写がことさら不気味で、久しぶりに読みながら背後の気配を気にするという「あなたの知らない世界」を観ながらびくついていた子ども時代のフラッシュバックを体験した。
ここで語られる怪異は、伝承や忌まわしい風習に起因する類のもので、「覗き屋敷の怪」ではそれが過去のものとなった後年の話で、「終い屋敷の凶」はまさにそれが起こっている時の話。
先にも書いたように、怪談として秀逸なのは「覗き屋敷の怪」で、ここでは過去のものとなった舞台である侶磊村(ともらいむら)が廃村になって登場する。
だいたい肝試し系の怪談はみなそうなのだが、かつて人が住んでいていまは誰もいなくなった場所というのはなまじ生活が営まれていただけに残滓が漂っていて不気味なものである。そこに漂う思念や生活の形跡には過去に起こった事実が反映されていて、それが現在の侵入者に対して牙を剥く。そこには必ず因縁があり、それがひきおこす怪異には原因がある。しかし、実際のそういった怪異現象には明解な答えは存在しない。なぜそういう事が起こるのか?それを未然に防ぐにはどうすればいいのか?それが見えないからこそ恐怖が倍増する。
しかし、本書で描かれる怪異にはある程度の答えが用意されている。そこがホラーとミステリの融合部分だ。すべてが解明されるわけではないのだが、「終い屋敷の凶」で描かれるそもそもの原因となった怪異についてはラストで鮮やかに反転する解明が描かれる。ま、少し弱い気もするけどね。
とりわけぼくは前半の「覗き屋敷の怪」にゾクゾクする怖さを感じた。後半の「終い屋敷の凶」は少し助長に感じたけどね。
というわけで久しぶりの三津田作品、そこそこ楽しめました。