読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

澤村伊智「ぼぎわんが来る」

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 最近の角川ホラー大賞作の中では断トツだった。ま、いままでの大賞作全部読んだわけじゃないけどね。でも、第17回と第19回の大賞作は、とんでもない作品だったのでその中では本作は作品として完成されていたと思うのである。

 本書は三部構成になっていて、特筆すべきは第一部で描かれる怪異の不気味さだ。日常に訪れる忌まわしいもの。それは、なんの前触れもなくいきなりやってくる。何が恐ろしいといって、玄関のガラスの引き戸越しに灰色のシルエットとなった『それ』と相対する恐怖は、この上ない。本書の白眉である。その後は章ごとに語り手を変えながら物語が進められてゆくのだが、ここからは常套。敵の正体の究明と退治をもって幕となる。

 展開としては、怪異以外にもちょっとヒネりがあったりするのだが、これは一部で少し匂わせてあったのが不満。まっさらの気持ちで第二部の反転を楽しみたかった。ぼぎわんの正体については、まったくのオリジナルでありながら、文献や伝承などを絡め、なかなか信憑性のある怪異として確立されており、それはすごくおもしろく感じた。ストーリーの展開がはやく、次へ次へと読み進めさせる力量はたいしたものであり、最後の決着までのまだ見ぬ敵への恐怖のあおり方が秀逸だった。

 しかし、やはりホラーと定義される小説を書くのは難しいなと思うのである。怪異を創造するのは容易でも、それにリアリティをもたせるのが尋常でない作業だし、またそれに固執してもバランスの悪い見栄えになる。怪異自体も実害をどこまで許容するかで、絵空事になるかどうかが決まってしまうし、正体を描くかどうかという問題もある。怖さを追求すれば、必ず曖昧さとの境界の問題が浮上してきて、解明の必要性で悩むことになる。要はバランスなのだ。本筋に付随する些細な出来事、登場人物の造形因縁の有無。そしてそれらをまとめあげて表出させる描写力。

 いやはや、ほんと難しいよねホラーって。