読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

宮澤伊織「裏世界ピクニック3 ヤマノケハイ」

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 本書でこのシリーズの流れは変わる。さて、どれだけ続くかわからないが、この第三巻が本シリーズの変化点であるのは間違いないのである。本書には三編収録されている。

 ファイル9 「ヤマノケハイ」

 ファイル10「サンヌキさんとカラテカさん」

 ファイル11「ささやきボイスは自己責任」


 タイトルを見るとなかなか呑気な感じで、ゆるゆるな話なのかなと思ってしまうが、決してそんなことはありません。まー、気持ち悪いのからワケわからんのからとんでもないのまでゴロゴロ出てまいります。

 何度も言うが、ぼくはこういうネットロア的なものにはホント疎くて、新たな発見ばかりで驚くと同時に楽しんでおります。でも、そんな中でも「山の牧場」なんかは「新耳袋―現代百物語〈第四夜〉」を読んでいたおかげでよくよく知っていたのだが、本当にツボを押さえているというか、ハマっているというか、ちょっと真似できない作り物にはない独特の怖さがあって、大変ヨロシイ。

 ここらへんの呼吸って、この作者の独壇場だよね。ネットロアというソースをしっかりと掌中におさめちゃってるし、それが堂に入っている。ぼくは、そこに感心しきりなのであります。

 で、本書の三番目、ファイル11の話においてこのシリーズはまた大きく動き出すことになる。まさしく『転』の部分なんだな。まだまだ不透明な部分はあるにも関わらず、小出しにされた事実関係が徐々にあきらかになって物語に奥行きが生まれてゆく。これだから、シリーズ物はおもしろい。

 てか、この部分の旨味がないとシリーズとして失格だもんね。

 というわけで、ここまで読んできて次回がすっごく楽しみなのであります。願わくば、作者があのナボコフがよくやるように、こちらの期待をひょいとかわす【勝手に知らんぷり】技法を使わないで、大いにカタルシスを味わわせてくれることを願っております。