読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

2011-01-01から1年間の記事一覧

モーシン・ハミッド「コウモリの見た夢」

海の向こうの出来事ながら、9.11同時多発テロが我々に与えた衝撃は計りしれないものがあった。旅客機がビルに突っ込んでゆくという映画の中でも観ることのできないような凄まじい映像と、その後に続く貿易センタービルの崩壊。もう十年近くになるが、あの時…

南川泰三「グッバイ艶」

出会いはまことに不埒なものだった。酒を飲ませたらタダでやらせる女だといわれて、童貞の主人公はその女に紹介されるのである。それが、それから二十五年に渡り激烈な人生を共にすることになる艶との馴初めだった。本書はその艶と主人公である南川泰三氏と…

事件の行方

事件は薄汚れた下町で起こった。ぼくは、その日の朝から体調が悪く鼻の曲がりそうなオナラを30分に一回ぶちかましていた。おそらく前夜に食した韓国料理があまり合わなかったのだろう。豚の脂とニンニクを同時に食べると、いつもこんな調子だ。 そんなこと…

石川梵「鯨人」

週刊ブックレビューで、盛田隆二氏が合評で紹介されてた本で、他の出演者の方々も皆本書のことをおもしろいと興奮気味に話しておられるのをみて、どうにも読みたくなってしまった一冊。 インドネシア諸島のレンバタ島にあるラマレラという村に銛一本で巨大な…

若かりし頃のベック版「ダーティペア」その2

というわけで、前回調子にのって記事にしたダーティペアのお話の続きなのである。今回は前回よりもだいぶ少なめでございます。 「なんなのあの男。ハンサムな割には、やってることがエグいじゃない」 わけのわからないことを言うと、つかつかと男の方へ歩い…

古本購入記  2011年 5月

なぜだか、今月は結構買ってしまった。まだまだ新刊だと思われる本が105円で売られたりしてると思わ ず買ってしまう。それとか、ピピッと反応してしまうような本が色々見つかったから、やはりどうしても 手に入れたくなってしまう。そういうのが重なった。あ…

ジェフリー・ディヴァー他、エド・マクベイン編「十の罪業 BLACK」

「十の罪業」としてBLACK、REDの二冊が刊行されている。編者は大ベテランのエド・マクベインであり、彼自身の87分署シリーズの一編も収録されている。今回読んだのはBLACKの巻で、ここに収録されているのは以下の作品。 ジェフリー・ディーヴ…

豊﨑由美「ニッポンの書評」

つい先日、豊﨑由美氏と杉江松恋氏の二人が書評講座「書評の愉悦出張版」というトークイベントを開催された。西村賢太「どうで死ぬ身の一踊り」(表題作のみ)とJ・P・マンシェット『愚者が出てくる、城塞が見える」の二作品のどちらかの書評を800字~…

若かりし頃のベック版「ダーティペア」

むかし、むかし高千穂遥氏の「ダーティペアの大冒険」を読んでノックアウトされて自分でもその設定だけを借りて少し創作してみたことがあった。もう二十年以上前のことである。みなさん、あのユリとケイのはちゃめちゃなスペースオペラご存知?読まれたこと…

本を読むぼくを見ているぼく フランケンシュタイン風ドッペルゲンガーの物語

本を開いてみる。ざらついて黄ばんだページには、読めない文字が並んでいた。でも、ぼくはそれを一生懸命読んでいる。文字を読んでいる自分とそれを夢でみている自分がいる。不思議なことにぼくは自分を第三者として観察しているのだ。本の内容はわからない…

ベックのスティーヴン・キング遍歴 2

前回は、「IT」を読むまでの遍歴を紹介した。で、ようやくその年(1991年)の秋に「IT」が刊行され、首を引きちぎれそうなほど長くして待っていたぼくはすぐさま購入して読了した。マグナム・オーパスといわれる作品だけあって、これの面白さは抜群…

パスカル・ラバテ「イビクス」

BDコレクションの一冊。主人公であるネヴローゾフは、ジプシーの集落を通りかかったときに、一人の女に呼び止められ『世界が流血と大火で崩壊するとき、戦火が街を焼き尽くすとき、兄弟同士で殺し合うとき、あんたは金持ちになる。数奇な運命に導かれたあ…

西村賢太「どうで死ぬ身の一踊り」

西村賢太の師事する作家藤澤淸造は、大正時代の一時を流れ星のように駆け抜けた薄幸の人だった。性病から精神異常をきたし、警察の拘留や内縁の妻への暴行をくり返しあげくの果てに失踪、最終的には公園のベンチで凍死するというなんともお粗末な末路だった。…

ベックのスティーヴン・キング遍歴 1

5月13日に新宿のClub EXIT(非常口)という店で、『スティーブン・キング酒場』という催しが開かれた。「アンダー・ザ・ドーム」の刊行記念ということで、訳者の白石朗氏、表紙絵の藤田新策氏、そして文藝春秋の担当編集者である永嶋俊一郎氏の三方にくわ…

万城目学「偉大なる、しゅららぼん」

京都、奈良、大阪ときて、今度は滋賀が舞台なのである。万城目作品はけっこう続けて読んでいて、二作目の「鹿男あをによし」以外はすべて読んできたわけなのだが、本書はその中でも一、二を争う読後感の良さとおもしろさを兼ねそなえた本だった。しかし、断…

文藝春秋編 「奇妙なはなし アンソロジー人間の情景6」

ぼくの好きなアンソロジーなのである。この文春文庫から出てる【人間の情景】というアンソロジーシリーズは文藝春秋七十周年記念出版として八冊刊行されていて、本書はその六番目。「奇妙なはなし」って、いかにもミステリ好きが喜びそうなアンソロジーでし…

リンウッド・バークレイ「失踪家族」

ホームズ譚の挿話である「ジェイムズ・フェリモア氏の失踪」を例に挙げるまでもなく、劇的な失踪事件というものはミステリの題材として、とても魅力的だ。 本書はそんな不思議でショッキングな失踪事件で幕を開ける。14歳のシンシアが朝目を覚ますと、自分…

古本購入記  2011年 4月

四月は、スティーヴン・キングの「アンダー・ザ・ドーム」一色の月だった。ほとんどそれしか読んでな かったが、まさに至福のひと月だったといえる。やっぱりキングって、ぼくが海外文学に目を向けるきっ かけになっただけあって、すごい吸引力だな。いまに…

窪美澄「ふがいない僕は空を見た」

日向蓬、豊島ミホ、宮木あや子と同じく本書の作者 窪美澄も「女による女のためのR-18文学賞」大賞を受賞している。この「女による女のためのR-18文学賞」ってのは、最初、官能小説を女性が書くための賞なのかと軽く見ていたのだが、どうしてどうして…

スティーヴン・キング「アンダー・ザ・ドーム(上下)」

まず、本書の分量をここで再確認しておこう。上下二段組で上下巻合わせて1400ページ。長さ的には「ザ・スタンド」、「IT」に次いで三番目に長い長編なのだそうだ。 ぼくがこれを読み始めたのがゲラの届いた4月5日。そして読了が発売日である4月27…

アンダー・ザ・ドームがやってきた!

つい先日、キングの最新刊「アンダー・ザ・ドーム」のゲラ読みの件を記事にしたばかりなのだが、とうとう明日4月27日が、そのキング最新刊の発売日となった。 ほんと待望の日でもあり、実物を手にする日をこれほど首を長くして待ったのはあの「IT」以来…

続・短編小説の愉楽

前回短編の魅力について語った。いつものクセで長々と書いてしまい、書き洩れてしまった作家や作品があったので、仕切り直しなのである。 というわけで、今回は早速紹介していきたいと思う。まずは、アイルランドが誇る世界最高レベルの短編職人ウィリアム・…

中山七里「連続殺人鬼カエル男」

このタイトルと表紙からわりとコミカルな雰囲気なのかと勝手に想像しながら読みはじめたのだが、これがこころよく裏切られるから、おもしろい。 ここ最近、本書ほど読みはじめる前と読み終えたあとのギャップが激しい本を読んだことはなかった。 この中山七…

ジムノペティ

月が見えているが、それは怪我をした月だった。ぼくはトイレで用を足しながら、窓からその血まみれの月をぼんやり見ていた。妻は白目を向きながら熟睡しており、邪まな意識が常に背後を流れていた。 昨日薬局で買った居直り薬はフルヘインとサボカトルの混合…

短編小説の愉楽

短編集が結構好きなのである。短いストーリーの中で発揮される鮮烈な悦び。それはストーリー自体のおもしろさでもあり、短い中での構成の巧みさでもあり、切り取られたシーンの印象深さでもあったりするのだが、とにかく短編にはコンパクトな中に凝縮された…

2011年4月10日、日曜、桜の下、ぼんぼん、幕末の志士

今日は昼前くらいに、ぼんぼんと一緒に選挙に行ってきました。 あたたかくて、とても気持ちのいい日曜のひととき。二人で手を繋いで選挙に行ったあと、そのまま川べりに降りていって、ちょっとした散歩を楽しみました。 折りしも桜が満開で、お昼時と重なっ…

明るすぎて何も見えない過去

確かここは幼少のころ一度訪れたことがあったのではないかと一生懸命思い出してみる。フラッシュバック。泣いてる自分、若い母の笑顔、土と潮の匂い、大きな岩、血のついたティッシュ。 断片が絡まりあい、一つの大きなうねりになりそうでならないもどかしさ…

ついに、届いたサプライズ。

先週末から告げてたことなのだが、キングの最新刊についてサプライズがあったのである。これもみなツイッターのおかげなのだが、ぼくがツイッターを始めた当初からお互いフォローしあってる方がいて、その人は文藝春秋の編集者であり、キングやディーバーや…

皆川博子「死の泉」

文庫本で644ページ、重量級の長編ミステリである。 舞台は第二次大戦下のドイツ。ナチスの政策で設立されたレーベンス・ボルン【生命の泉】という組織の運営するホーホラント産院にいる妊婦マルガレーテの独白で物語は幕を開ける。この組織はアーリア人種…

古本購入記  2011年 3月

このところ、ようやく本の購入欲にブレーキがかかるようになってきた。というか、もう自分が必要とす る過去に刊行された本は蒐集しつくしたようなのだ。まだまだ未知の作家や見逃している作品はあるのか もしれないが、自分の知ってる範囲内での蒐集品は一…