というわけで、前回調子にのって記事にしたダーティペアのお話の続きなのである。今回は前回よりもだいぶ少なめでございます。
「なんなのあの男。ハンサムな割には、やってることがエグいじゃない」
わけのわからないことを言うと、つかつかと男の方へ歩いて行った。さっきまでやりあっていた時の熱がまだ冷めてなかったらしい。あたしはユリよりもハンサムの方の心配をして、ユリをとめた。
「ちょっと、あんた!何しようってのよ!いきなり突っかかっていっちゃって」
あたしに腕をつかまれたユリは、キッと振り返った。
「何するつもりって、あの男がガン飛ばしたから、落とし前つけに行くのよ!仕掛けてきたのはあっちなんですからね!」
こらあかん。完全にキレとる。あたしは、ユリの腕をつかんだままムギに言った。
「ねえムギ、あんた何に対して威嚇してるわけ?あたしたちの前にいるのは、あのハンサムちゃん一人だけなのよ」
でも、ムギはうなるのをやめなかった。やはり、あの男に何かあるのか?
ムギの巻きひげに何かが感じられるのか。完全生物とまで称される、このクァールの巻きひげに。
―――――ここで、ムギのことを説明しておこう。
この『黒い破壊者』あるいは『恐怖の殺戮獣』などという剣呑な異名を数多く与えられているクァールは、地球連邦が派遣した学術探検隊により、ある惑星(名称、座標は極秘とされ、発表されていない)で発見された。
このおそるべき生物は真空中でも生存可能で、知能は人間以上とまでいわれている。外見は地球産の猫によく似ているが、体長は二メートルを越えていて、体色は漆黒、丸太のように太い四肢には鋭く長い爪を備えている。厚さ三センチくらいの鋼板だったら、まるで紙のように切り裂いてしまうだろう。しかも脚の他に両肩から二本の長い触手が生えていてその先端が吸盤状になっているので、およそ人間の手で可能な作業ならばすべて完璧にこなしてしまうのである。また耳は細かい毛が密集して巻きひげのようになっているのだが、クァールはこの巻きひげを振動させることによって、電波や電流も思いのままに操るというおそるべき能力も持っているのだ。
この極めて個体数の少ない、ほとんど絶滅寸前の生き物を、なぜあたしたちがペットにしているかということは、話せば長くなるのでいまは割愛させていただく。とにかくムギは、その凶暴で剣呑なクァールを、人間に慣れたおとなしい性格に作り変えた変種で、銀河広しといえど、この生物をペットにしているのは、あたしたちラブリーエンゼル(ダーティペアじゃなくってよ)だけなのだ。
一日に一個、バカ高い特製のカリウムカプセルを与えねばならないのでエサ代は嵩むが、ムギはそんなことぜんぜん気にならないほど最高のパートナーなのである。
ムギは何に対して威嚇しているのか、あたしにはさっぱりわからない。
あのハンサムちゃんにどんな危険が潜んでいるというのだろう?
あたしは、まだ駄々をこねているユキをつかんだまま、ハンサムちゃんに近づいていった。
『事が進まないならば、自ら行動を起こすべし』これは、あたしが生まれた惑星ニオーギで、よくつかわれる格言というやつだ。相手がハンサムなら、なおさらアタックすべしである。
「!」
しかしそこで、あたしはあることに思い当たって立ちどまった。ユリもあたしに腕をつかまれていたので、仕方なく立ちどまる。ムギも右にならえだ。
ユリが文句を言った。
「あによォ!なんで、いきなりとまるわけ!どういうことよ!」
ユリの文句を聞き流しながら、あたしはあることを考えていた。
前回のチャクラ事件での【見えない牙】を思い出したのだ。ムギが何かに向かって威嚇している。その方向にはハンサムちゃん一人だけ。あとは何もない。ということは、前回の化け物みたいな、目に見えない何かがいるってことなんじゃないの?そしてそして、まさかまたここでも宇宙犯罪組織ルーシファが関わっていたりするのか?
あたしの判断は、はやかった。あたしは、水着の胸元に隠してあったブラッディカードをハンサムめがけて投げつけてやった。鋭いエッジで、触れるものをことごとく切り裂いてゆくこのテグノイド鋼は、一回投げるとイオン原理で二時間はゆうに飛行可能で、手元の送信機で自在に操れる優れものだ。
しかし、そこで予想外のことが起こった。ハンサムめがけて飛んでいったブラッディカードは、その身体を通りこしてしまったのだ。
なぬ?ホロか?実体がないってこと?あたしとユリの目が点になっていたのは間違いない。
じゃあ、何度も問いかけるが、ムギが威嚇してるのは何なの?
と、ここで物語は終わってしまう。ここまで書いて、続きが書けなくなってしまったのだ。いってみれば見切り発車で、物語のプロットも何も考えてないまま書き出したので、こうなることは必定。そこで、ぼくはもう一度トライすべく、簡単なあらすじを組み立てて物語の骨子を考えてから、新たなダーティペアの話を書きだした。しかし、それはまた機会があればということにしておきましょう。