読書の愉楽

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南川泰三「グッバイ艶」

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 出会いはまことに不埒なものだった。酒を飲ませたらタダでやらせる女だといわれて、童貞の主人公はその女に紹介されるのである。それが、それから二十五年に渡り激烈な人生を共にすることになる艶との馴初めだった。本書はその艶と主人公である南川泰三氏との出会いから別れまでを描いた濃密な私小説だ。

 

 作者の南川氏のことは本書を読むまでまったく知らなかった。放送作家や劇作家をしておられたそうで、有名なところでは「ムツゴロウとゆかいな仲間たち」などを手掛けられたそうである。

 

 しかし、本書の真の主人公は艶という女性。彼女はおそろしく破滅的で熱しやすく、アルコール依存症で性に貪欲で自分本位で決して弱さを見せない女性。こう書くと、およそ世の男たちはみな怖気をふるってしまうだろう。実際ぼくも本書を読んでいて、何度も自問した。お前だったらどうする?こんな生活耐えられるか?そういう場面に何度も出くわすのである。

 

 しかし、南川氏は決して逃げださなかった。いや、そう書けば語弊がある。彼は、そういうこともすべて超越したところで艶という大きな女性を愛していたのである。帰宅すると真っ先に窺う顔色、アルコールが入ったときの薄氷を踏むような緊張の高まる問い詰め、いきなり爆発する激情。プライベートにそういう地雷を抱えながら、彼は劇団を設立し戯曲を書き、取材に行き番組の台本も書いていたのだ。読んでいるこちらまで緊張が高まってくる。だが、艶という偉大な女性には、決して語らぬ過去があった。その謎は艶の死後、下着の中から見つかる。正直、このくだりはぼくが予想したままの結果であり、そういった意味では驚きはなかったが、この事実が描かれることによって艶という破天荒な女性の生きざまがより一層強調されたのは間違いない。また、本書で描かれる時代は主に60年代、70年代なので、その時代の青春を謳歌された方には、また格別の感慨を催させるのではないかと思われる。興味のある方は是非お読みください。

 

 そうそう、本書は「本が好き!」の献本だったのだが、最近の献本はこんな印がしてあるのだ。

 

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               なんか、いいね、これ。